第39章 陽だまりの先へ(終)※
「あの薬で思い出せた人なんて見たことありません。それほどまでにほの花さんを愛していたんですね。」
「…当たり前だろ。お前の薬なんか効くかよ。舐めんなよ。」
「それこそが奇跡なんです。ほの花さんに託された想いを私が完成させます。なので、あなたはこれからもその命を以ってほの花さんを守ってあげてください。」
それは言われるまでもないこと。
馬鹿みたいに一人で抱え込んで俺の記憶を消して、そのお詫びとでも言わんばかりに人の腕を勝手に治して、生死を彷徨った阿呆なほの花は俺が絶対に守り続ける。
やっと全部知れたのだ。
ずっと知りたかった。
ほの花が何を感じ、何を思っていたのか。
「ああ。何があろうとコイツは俺の大切な女なのは変わりねぇよ。」
「…奇跡は始まっています。今のほの花さんだってまた思い出すかもしれません。」
「いいんだわ。コイツが生きてりゃ。記憶なんて二の次だ。」
「……そうですね。あなたたちと会うのは今日が最後でしょう。お元気で。」
ほの花だけの責任じゃない。
やはり俺もアイツの心にもっと寄り添ってやれば良かったのだ。
暗闇の中に消えていく二人を暫くそのまま見送ると、腕の中のほの花が声をかけてきた。
「…宇髄さん、ごめんね。」
「なーんで謝るんだよ。ばーか。さっきあの女が言ってたろ?お前は俺に守られてりゃいーの。」
「うん。きっと…きっとね、前の私はそれがどうしても嫌だったんだと思う…」
「嫌だった…?」
ほの花の言葉は本人であっても"予想"することしかできない。
でも、その顔は真剣で冗談を言っているようには見えない。
「…今の私ですらね、守られてるばかりで、お世話になってばかりで悪いなって思うの。その時の私なら余計にそう思うと思うの。だから、きっと…宇髄さんが大好きだったから宇髄さんの役に立てる方法を模索したんだと思う。」
確かにそれはほの花が考えそうなことで、記憶がなくともやはりほの花はほの花なのだ。
月明かりに照らされる彼女は変わらない。
俺の継子で恋人。
出会った時から変わらない優しくて遠慮しいの美しい女だ。