第39章 陽だまりの先へ(終)※
「…ほの花。」
俺はほの花の腰を引き寄せると珠世と言う女の前に出す。俺の顔と目の前の二人の顔を何度も見比べるほの花に笑顔を向けるとひとつ息を吐いた。
「…お前の血が必要なんだと。協力してやれるか?」
「う、うん。宇髄さんも此処にいてくれる?」
「ああ、此処にいる。」
甘えるようにそう言うほの花の頭をポンと撫でると腰を抱いたまま珠世に声をかける。
「…少しでも変な素振りを見せたらすぐに頚を斬る。いいな?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
すぐに注射器を取り出してほの花の腕を出させると少しずつ鮮血が吸い取られて行くのがわかる。
「体調が良くないでしょうから少しの量で結構です。今のほの花さんの体調の血が欲しかっただけなのです。必ずや薬を完成させますね。」
「……ありがとう、ございます。よろしくお願いします。」
きっとほの花は意味が分かっていないだろう。でも、心臓の音は正常だ。
コイツらを体が覚えているのかもしれない。
ほの花が大袈裟に怖がることもなく、採血はものの数十秒で終わった。
血をとったことでふらつくといけないと思い、そのまま体を抱き上げると、再びそいつらに向き合う。
すると、先に口を開いたのは珠世という女の方だった。
「必ず無惨を倒せます。私は今、奇跡を見ているのですから。」
俺を見上げてそう言うとニコリと微笑んだ。
奇跡?
奇跡と言われることがどう言うことだか分からず、俺は首を傾げた。
「…何のことだ?」
「あなたが…ほの花さんが言っていた記憶を消したい人、ですね?」
「!?なんで、それを…?!」
「…簡単です。私がその薬を作り、ほの花さんに渡したからです。」
俺と同じように驚きを隠せない腕の中のほの花。
そう言うことだったのか。
漸く全てが繋がった。
ほの花は鬼に協力する代わりに自分の計画を珠世を手伝わせた。
それはほの花が一人で抱え込んで、あれほどまでに記憶のない俺を拒んだ理由も自ずと理解できた。
裏切ってしまった。
そう思った筈だ。
アイツならば。