第39章 陽だまりの先へ(終)※
「上弦の鬼の戦闘時のことまで知っているならほの花の身の安全を考えろよな。鬼舞辻無惨がコイツの命を狙ってんの知ってるだろ?」
「ええ。彼がほの花さんの存在に気づいたことも神楽家の女児が狙われるのも知っています。ですが、もうその必要はないんです。」
「…なんだと?」
目の前の女が言ってることがわからない。
だが、目の前の女は嘘を言っているようには見えない。竈門が信頼できると言っているだけあって確かに鬼だと言うこと以外は普通に見える。
「…竈門禰󠄀豆子さんが太陽を克服したことはご存知ですか?」
「……ああ。聞いてはいる。」
刀鍛冶の里が上弦の鬼に襲われた後、俺のところにもその一報が入った。
だが、竈門禰󠄀豆子が太陽を克服したこととほの花がどう関係しているのかはまだ分からない。
夜分出歩かせて襲われない保証はない。
「鬼舞辻無惨が最も望んでいることはほの花さんが死ぬことではありません。太陽を克服することです。禰󠄀豆子さんが太陽を克服した以上、ほの花さんよりも禰󠄀豆子さんに焦点を合わせたでしょう。」
「…竈門禰󠄀豆子を取り込むことで自分が太陽を克服できるからってことか。」
「そうです。なのでほの花さんを殺すことは二の次でしょう。薬を作っていることまでは知られていないのですから私はそれを完成させるためにいま一度ほの花さんに会いに来ました。」
「信じる証拠は?」
「ありませんが、私はその子の母親の祖先に医学を教えた者です。弟子の子孫を殺めることなどしません。」
(…そういうことか。)
ほの花が母親の古い知人と言った理由がわかった。
嘘を吐くのが嫌だと思っていた筈だ。少なくとも俺には。
言えないことをあれほど気に病んでいたのだから。それならば少しでも事実に近い言い方をするだろう。
背後にいるほの花を見遣れば、不安そうな瞳に俺を映す。此処でコイツらの頚を斬ることはできる筈だ。
でも……
(…お前ならどうする?ほの花。)
此処にはいない昔のほの花に問えば、甦ってくるのは彼女の笑顔ばかり。
その笑顔が俺に「大丈夫だ」と言っているような気がした。