第39章 陽だまりの先へ(終)※
夜中に突然、ほの花の部屋から物音が聴こえた。稽古を付ける側とは言え、終日後輩の指導に明け暮れていた俺は多少の疲労感で微睡の中で「厠でもいくんだろうな」と思っていた。
しかし、開け放たれた襖が屋敷の中ではなく、縁側の方でじゃり、という音を立てながら歩行っていったことに気づいた俺は慌てて起き上がった。
少しだけ襖を開けて様子を見てみれば、ほの花を道案内するかのように前を歩く猫。
ただ普通の猫では無い。
それが"鬼"だと分かった瞬間、俺はお館様と竈門の言葉を思い出した。
ほの花が生きていたことを知った鬼舞辻無惨がほの花を殺しに来るかもしれないと。
俺は枕元に置いてあった日輪刀を引っ掴むと無我夢中で飛び出した。
まだアイツらは俺に気づいてはいない。
しかし、殺気も感じない。
呼吸を使おうと思っていたが、一旦諌めると静かにほの花の後ろに降り立ち、日輪刀を突きつけた。
「…お前らは何者だ。ほの花に何か用ならば俺が聞き受ける。コイツに手を出すな。」
ほの花と対峙していたのは二人の鬼。
一人は着物を着た女は柔和な表情を浮かべ、もう一人はその隣に寄り添う男は少しだけ敵意を見せているがすぐに斬りかかるような様子は見受けられない。
話し合いが通じる奴なのかも分からない。
でも、少なくとも殺気を感じないと言うことは悪戯に頚を直ぐに斬ってもいいものかと考えざるを得なかった。
竈門禰󠄀豆子のこともある。
人を喰らわない鬼がいるならば、此処ですぐに頚を斬ることが憚られたのだ。
すると、フッと笑みを浮かべると女が口を開いた。
「…ご心配をされなくともほの花さんに手を出すことはありませんし、私は鬼舞辻無惨の監視下から外れていますので此処でのことがあの男に知られることもありません。」
「……俺がそれを信じるとでも?」
「貴様!!珠世様が折角下手に出ていると言うのに!!」
「愈史郎。やめなさい。」
「はい!やめます!」
茶番のようなやりとりに眉間に皺を寄せると、
不安げに俺を見つめるほの花が、きゅっと夜着を握った。
安心させるように背中を撫でるとほの花の前に出る。