第39章 陽だまりの先へ(終)※
「あ…善逸、くん…!炭治郎くんから聞いてます!えと、こんにちは。覚えてなくてごめんね?」
「ううん!全然、いいんだ!その…潜入調査が一緒だったし、ほの花にはいつも助けられてばっかりだったから…心配だった。でも、目が覚めて良かったね。おっさん…あ、えと、宇髄さんも心配してたよ。」
普段、おっさんって呼んでるんだろうか。
ぽろりと出てしまった本音が面白くて口角を上げる。
「そうなんだね?全然覚えてなくて…、でも、善逸くんは緊張しないからきっと前から仲良くしてくれていたんだね。ありがとう。」
善逸くんは汗を拭いながら私が座っていた縁側に腰掛けると同じように空を見上げた。
「宇髄さんさ、毎日毎日ほの花に話しかけてたよ。反応なくても、今日の天気から始まって雑談をひたすらしてた。俺もね?花を持ってよくお見舞いにいってたんだよ。」
「そうだったの?ありがとう。覚えてないのが残念すぎるよ…」
「一回だけ知らなくて菊の花を持って行ったら凄く怒られたけど。悪気はなかったんだ…、ごめんね。」
他愛のないそんな話も今生きていなければできないこと。
善逸くんが教えてくれる宇髄さんは私のことを心配して毎日反応のない私に声をかけてくれていたという。
(…何だろう?そうだ、私が戻ってこれたのは誰かの"声"のおかげだった。)
目が覚めたとき、宇髄さんを見て"知らない人"と思ったのは間違いない。
でも、そのもっともっと前。
真っ暗闇の中にいた時に聞こえて来た声は明らかに聞いたことがあった。
差し出された手はゴツゴツとして大きくて何度もそれに救われた。
「ううん。全然大丈夫だけど、そっか…ふふ。宇髄さんに怒られちゃった?ごめんね。」
「そうなんだよ!宇髄さんはさ〜、ほの花のことになるといつもめくじら立てて怒ってくるからさぁ…!」
「こーんな顔してさ」と自らの目尻を吊り上げさせてきたのを見ると思わず"ブフっ"と吹き出してしまった。
善逸くんは貴重な休憩の間、暇そうにしていた私の話し相手になってくれて、宇髄さんからの呼び出しがかかるまでずっとそばにいてくれた。