第39章 陽だまりの先へ(終)※
体を洗いながらだったのですっかり冷えてしまった体を温めるため今度は湯船に浸かってまきをさんと再び向き合うと、お湯に映る自分が揺れていた。
「…よくわかった…ごめんね。」
「大体天元様がほの花さんのことほんの少しでも嫌だと思うわけないじゃん。今頃抱きたくて悶々としてる筈だから、落ち着いたら身も心も天元様に捧げておいで。」
「ひ、っ…ぅあああ…は、恥ずかしいぃい、…」
「あ!そんな感じ!そんな感じだったよ?捧げる前のほの花さん。全然変わんないよ。ほの花さんはほの花さんなんだから。」
この家の人は私を慰めるわけではなく、自然に言ってくれることがある。
それは記憶を無くした私も私。
今も昔も私は神楽ほの花だと言ってくれる。
それだけでどれだけ"今の私"が救われたかわからない。
「ありがとう…、うう…どうしよう…、え…!あの、な!なんか準備するものは…!」
「心の準備だけじゃない?」
「そ、それは…ごもっともで…。」
確かに今の私に必要なのは心の準備がもっとも大きいだろう。
体を温めるのを目的にしていたのに女と言うのは話は始めると止まらないのはいつでもどこでも誰でも同じ。
しかも話の内容が"まぐわい"だ。
頭に血が上っているような状態のまま、私たちは一時間ほど湯船にいたせいで出た頃にはふらふらと逆上せて千鳥足になっていたのは仕方ないと思う。
「おいおい、お前らどうしたんだよ。」
そんな私たちが廊下をふらふらと壁伝いに歩いていると宇髄さんがこちらを見て訝しげな顔を向けながら前から歩いてきた。
「あ、天元様。見ての通り、お風呂に浸かり過ぎて逆上せました。」
「あはは…お話しすぎちゃって…」
「…ったくよぉ、まきをはともかくほの花はすぐに熱出ちまうんだから気をつけろよ。ほら、抱えてやるから。」
「ずるーーい!!天元様!隆元様呼んできて下さいよ!私も抱えてもらいたい!!」
「はぁ?!」
宇髄さんとまきをさん達はこうやってみるともう本当に普通の家族だ。言い合いが激しくなる前に妥協案を提案しようと口を開くが…
「まきをさんを抱えた私を宇髄さんが抱っこするというのはどうですか?」
「「馬鹿か!!!」」
二人から叱責をされて私の提案はあっけなく却下されてしまったのはいうまでもない。