第39章 陽だまりの先へ(終)※
宇髄さんと濃厚な口づけをしてしまった翌日、胡蝶さんのところに行ってくると言ってお出かけしたと思ったら帰ってくるなり、"柱稽古"とやらをやることになったと教えてくれた。
宇髄さんは鬼殺隊の元音柱という凄く強い人みたいで、後輩の育成のために稽古をつけるのだという。
引退してから後輩の育成をしていきたいというのは聞いていたので然程驚かなかったけど、突然明日からやるということには流石に驚いた。
雛鶴さん達に炊き出しの依頼をしたり、正宗達にすら稽古をつける場所の準備を頼んでいるのに私だけ大人しくしてろと言われてしまい、情けなかった。
確かに無理はできないし、昨日だって少し疲れただけで発熱してしまうような体の状態だ。
言っていることは正しいし、私がいても邪魔になるだけだと自分を納得させようとしていると宇髄さんが思い付いたと言わんばかりにこちらを見て剣士の人たちの介抱を頼んでくれた。
一人で屋敷の中で安静にしていないといけないと思っていたので思ってもいない申し出に嬉しくて顔が綻んだ。
介抱ならば屋敷の中にいて、人が来た時だけ処置をすればいいし、此処では"薬師"として救護活動をよくしていたらしいし、打ってつけだと思ってくれたのだろう。
記憶はないが、薬師としての知識は残っていて目が覚めたばかりの時胡蝶さんに質問されたことは全て答えることが出来ていた。
だから頼んでくれたことは嬉しかったし、こんな体でもできることがあることもホッとした。
ただ…今朝から宇髄さんとはあまり目が合わない。今だってそうやって気を遣って私の役目を作ってくれたけど、軽く目があっただけで直ぐにそらされてしまう。
それがなぜなのか分からないほど馬鹿ではない。
昨夜、あの濃厚な口づけを受けた後、宇髄さんが言った一言に私が困惑してしまったからだ。
「抱かれたいか?」と聞かれたらやっぱり少し怖い。宇髄さんのことは信頼してるけど、初めてのこと…ではないけども!
記憶もないし、好きだと気づいたばかりの宇髄さんと急にまぐわうという思考に行き着かなくて困惑してしまったのだ。
だけど、宇髄さんが我慢してくれているのはよくわかる。ツラそうな笑顔は申し訳ないと感じるのに歩み寄ろうとしても宇髄さんと距離が出来てしまって近づけなくなってしまった。