第39章 陽だまりの先へ(終)※
私が今まで宇髄さんとしていたのは口づけではなかったのだろうか?と思うほど、絡み合う濃厚なそれにお腹の方が熱くなってきたのが分かる。
初めての感覚で怖いけど、宇髄さんが優しく頭を撫でてくれていることと、貪りつかれるような口づけに翻弄されて怖さなんて溶けて無くなっていく。
ただただ私はその口づけを何とか受け止めることしかできずにいた。
どれくらい続いたのか分からないそれが漸く宇髄さんの顔が見えたことで、其処に空間が生まれたことに気づいた。
「…あ、…」
「……悪ぃ、危なかった…。」
「…え?」
「危うく抱きそうになっちまった…」
「ええ?!」
それは"私"にとってみれば人生最大の衝撃と言ってもいいほどのこと。
いや、宇髄さんのこの感じを見るに前の私とはそういうことをシたことはあるのだということだけは分かる。
でも、"私"とはまだない。
触れるだけの口づけでも恥ずかしくて終わった後、どんな顔をしたらいいのか分からないというのに"抱かれる"ということはもっともっと羞恥を伴うものなのだから。
「あ、あの、えと…」
「分かってるわかってる。まだそこまでの心の準備ができてねぇよな?大丈夫だからよ。」
そう言って笑う宇髄さんだけどその顔は少し引き攣っている。
"私"がそんな顔をさせてしまったのだ。
恋人同士と言うのはそう言うこともするのだろうか。
しかも、宇髄さんは私のことを婚約者と言ってくれていた。と言うことならば余計に"シていない"ということはおかしいことなのかもしれない。
「あの…宇髄さん…」
「でもよ、敬語は…少しずつでいいから使うなよ?俺だってお前ともっと近付きてぇからよ。」
これは宇髄さんの譲歩だ。
本当は"抱きたい"と思ってくれてるのを我慢してくれているからせめて敬語は無くしてほしいという彼なりの優しさ。
「…はい…じゃなくて、うん。ありがとう。」
「そうそう、その調子。ああ、そうだ。解熱剤飲むか?効かねぇかな。」
「あ、えと…念のため飲んでおこう、かな。」
それっきり宇髄さんは"抱きたい"と言うことを言わなくなった。
私のためだと言うことは分かる。
でも、時が経てば経つほどに距離が遠くなっていく気がした。