第39章 陽だまりの先へ(終)※
それは嬉しい誤算。
詩乃に会ったことでほの花はまた記憶がないことに気を病んでいたのだと思っていた。
でも、やはり人の気持ちというものは腹を割って話さなければわからないものだ。
まさかほの花がヤキモチを妬いていたなんて思いもしなかった。
消去法でそれは先ほど会った詩乃に対するものだと思う。
それがたまらなく嬉しかった。
自分は嫉妬深い方だと思うし、今日だって連れて歩いているほの花があまりに容姿が整っているせいですれ違う男どもにどれほど牽制したか。
だから町の方には連れてきたくなかったのだ。
山や川の方ばかり散歩に行っていたのは人通りが少なくてほの花を他の男にお披露目する必要がないからだ。
今のほの花は体が思うように動かせないし、体が覚えているだろうから襲われれば返り討ちにするだけの技術はあると思う。
だが、如何せんそれをするだけの体力がない。
疲れやすいし、逃げようにもすぐに捕まってしまうだろう。
そんな状態のほの花を町の男どもに見られて、俺がいない時に手を出されるようなことは絶対に避けたいのだ。
「…詩乃は別に元恋人でも何でもねぇよ。鬼の棲家に潜入するために客として出会った女だ。それ以上でもそれ以下でもねぇから。」
「……は、はい。」
「そんなに嫌だったか?俺が女と話してるのが。」
詩乃と話していることを嫌だと感じてくれたのは間違いないのに、本人の口から聞きたくてついつい意地悪な質問をしてしまう。
顔を真っ赤にして目を彷徨わせているほの花が可愛くて仕方ない。
それでも何とか唇を噛み締めて、目を固く瞑りコクンと頷いたほの花に顔がにやけるのを止めることができなかった。
寝ているほの花にそのまま覆い被さると発熱と羞恥心によって火照らせている顔に手を添えて口づけをした。
触れるだけのそれではなく、ぐちゅりと舌を差し込んでみれば体がビクッと震えたが、頭を撫でながらそれを続ければ少しずつ弛緩していく。
熱のせいで口腔内は熱い。
無理をさせられないと分かっているのに彼女の舌を捕まえると夢中で引き寄せ絡めあった。
そんな濃厚な口づけはいつぶりだろうか。
俺は暫く其処から離れることができなかった。