第39章 陽だまりの先へ(終)※
「あの…ほの花さんにひとつだけ言いたいことがあるんです。いいですか?」
そう言って詩乃は俺の後ろに隠しているほの花に向けて言葉を発した。
あまり思い出させたくはない。
でも、後ろにいたほの花が自ら顔をひょこっと出したので、腰を抱いて横に並ばせてやる。
「あの日、私があなたに言った言葉をもう一度伝えてもいいですか?忘れてしまったと思うので…。」
「…えと、はい。」
「大切な人を大切にする勇気を持ってくださいね。あなたには大切にしてくださる殿方がいるじゃないですか。もう逃げないで。」
ほの花と詩乃の間にどんな会話がなされていたのかは分からない。
でも、詩乃はほの花と俺の話をしていたのだろう。
「…ありがとうございます。忘れてしまって何度も言わせて申し訳ありません。」
「それはいいんです。でも、せっかく宇髄様のことを諦めたんですもの。お二人には幸せになって頂きたいですから。」
しかし、いきなり現れた知らない女との会話に心無しか疲れた表情に見えるほの花に俺は慌てて話を切り上げることにした。
「詩乃、悪ぃな。コイツ、体調がまだ本調子じゃねぇからよ。もういいか?」
「はい。ありがとうございました。宇髄様。もうこれで本当に会うことはないかもしれません。お二人の健やかな未来を心より願っております。では…。」
深々とお辞儀をすると、遊女ならではの気品ある凛とした表情でその場を去っていく。
それを見送るとほの花の腰に手を回す。
「大丈夫か?疲れたろ。甘味はやめて家に帰るか?」
「…そうしても、いいですか?」
「ああ。抱えてやろうか?」
「いえ、大丈夫です。でも…腕を掴ませてもらってもいいですか?」
それほどまでに疲れているならば、抱えてやりたいと言うのにほの花は隣で並んで歩きたいと言い、ギリギリまで自分の足で歩いていた。
だけど、家に着く間際に肩で息をし出したことで強制的に抱き上げるとそのまま気を失うように眠ってしまった。
その日、ほの花はまた発熱した。