第39章 陽だまりの先へ(終)※
詩乃がほの花と接触していたとは知らなかった。
今となってはほの花から聞くことはできなかったことだから彼女の話は興味深いが折角記憶がないことを気に病まなくなってきたというのに背後にいるほの花をチラッと見れば、その顔は寂しそうに見えた。
しかし、詩乃の話は終わらない。
別に詩乃が悪いわけではない。思いがけない場所で知り合いに会えば、会話が弾んでしまうのは仕方ないことだし、俺は突然姿を消した謎の客だ。
聞きたいことなど山ほどあるのだろう。
「あの日、宇髄様は得体の知れぬ何かと戦ってくれていたんですよね?遊郭に何度も足を運んでいたのはそのため、ですか?」
真剣な顔をしている詩乃だが、そこに怒りの感情は感じられない。ただ"知りたい"だけなのだろう。
「……ああ。そうだ。情報収集のために詩乃に近づいた。悪かったな。」
「せっかくお金を払っているのに…、私を抱かなかったのは…ほの花さんのことを愛しているから、ですよね?」
「……そうだな。間違いない。あの時は…俺の一方通行の想いだった。」
ほの花は心の底では俺のことを想っていてくれたのかもしれない。だが、そんなことをわざわざ話しても何にもならない。
ほの花が気に病むだけだ。これ以上気に病ませたくない。
「…お話してくださった部下の方を好いていらっしゃるのは何となく気付いていました。でも、その方がほの花さんだということはあの日、直感的に感じたんです。」
「詩乃…」
「朦朧としていた意識の中で宇髄様はほの花さんに対して同じ表情をしていたから。私に話してくれた時と全く同じ。だから気付いたんです。」
それはあの地下の空洞にいた時のことだろう。
意識を取り戻していたとは思わなかった。
俺はあの時、ほの花を守ることに頭がいっぱいだったから。
そして、潜入調査をしていたあの期間中も結局俺はいつだってほの花のことで頭がいっぱいだった。
頭から消そうと思えば思うほど、泉のように湧き上がってくるほの花への想いを止めることができなかったんだろうな。
今思えば、そうとしか考えられない。