第39章 陽だまりの先へ(終)※
「やっぱり…!秋元様でいらっしゃいますよね?目を…!怪我されたのですか?あの戦いの時に…!」
「あ、いや、詩乃…。ぶ、無事だったんだな、よかった。」
「はい…!ほの花さんに安全なところまで運んでいただいて…!その後、遊郭は崩壊状態でしたので建て直すまでこちらの近くでご厄介になっていたんです。」
「あー、そうか…」
突然、宇髄さんに声をかけてきた女性は清楚な佇まいの長い黒髪の女性。
彼が美丈夫なのは見ればわかることだし、この女性が宇髄さんと何らかの関係性があったことは明白だ。
話の流れで自分の名前が出てきたが、記憶がないためまるで他人事のようにそれを聞くことしかできずにぼーっとしてしまった。
すると、そんな私に気付いた"詩乃"と呼ばれた女性が声をかけてくれる。
「…?ああ!ごめんなさい…!えと、宇髄様、でしたね?最後に…ほの花さんが、教えてくれたんです。…ね?」
「…え?…えと…」
「あの時、助けて下さってありがとうございました。ほの花さんにも改めてお礼が言いたかったんです。」
助けた?私がこの女性を?
意図はわからないが、敵か味方で分けるのであればたぶん彼女は味方でいいとは思う。
でも…モヤつくのは何故だろう。
混乱している私を見て助け舟を出してくれたのはやはり宇髄さんで、詩乃さんの前に立つと私を背中に隠してくれた。
「詩乃。ほの花は…、その時の記憶がないんだ。悪ぃがそっとしてやってくれねぇか。」
「え…?!」
「その時……意識不明の重体になって生死を彷徨ってつい最近目を覚ましたんだ。その時の記憶はない。」
「…そう、なんですか…。」
無性に宇髄さんの背中に抱きつきたい衝動に駆られている。私を守るように代わりに状況を説明してくれると詩乃さんは納得したように頷いていた。
「…宇髄様にもお礼を言いたかったんです。もう二度とお会いできないと思っていたのでほの花さんに伝言を頼んだんですが、伝わってないですよね?」
「…あー、まぁ、そうだな。仕方ないことだけどな。」
知らなくてもいい。
知らない私を愛してくれる宇髄さんにそう思ってきた。
それなのにいま、私は"知らないこと"が何故だか悔しくてたまらなかった。