第39章 陽だまりの先へ(終)※
ほの花の心の中に巣食う遠慮の鬼はこんな時でも顔を出す。
たかがネックレス一つ買ってやっただけで顔面蒼白にして申し訳なさそうにするほの花に無理矢理それを首につけてやれば、困惑の中でも嬉しそうに口角を上げた。
全ては経験だ。
男に買ってもらう経験もなければ、今まで男に背が高いことを揶揄されて邪険にされてきた経験がほの花の遠慮深さを助長している。
…であればやることはただ一つ。
(その全ての遠慮の塊を俺が斬ってやるのみ。)
男女の関係において恋人に贈り物をすることなどめずらしいことではない。
要は慣れていないほの花の身の振り方がわからないだけ。
素直に甘えればいい。
わがままだって言えばいい。
少しずつでいいんだ。
でも、少しずつでもやることに意味がある。
「さ、甘味食って帰ろうぜ?長居すると体に障る。」
「あ、あの…!」
まだ何か腹にイチモツあるのだろうか。
難しい顔をして下を向いてるほの花が俺を呼び止める。
(もう少し諭してやらねぇと駄目か…?)
そう思って向き合えば、頬を桃色に染めたほの花が顔をくしゃっとさせてはにかんだ。
その顔は初めて見るかもしれない。
それほどまでに何の裏も感じない真っ新な表情に目を奪われた。
「…宇髄さん、ありがとうございます…!嬉しいです。大切に…大切にします…!」
「…っ、あ、…ああ。そうか、良かった。」
なぁ、ほの花。
俺は何度お前に堕ちればいい?
新たな一面を知るたびに俺の胸はいつも高鳴る。
そうして俺はお前に溺れていくんだろ?
ほの花の手を再び握り直し、甘味処に向かおうと歩き出すが、その時、後ろから聴き覚えのある声に呼び止められた。
「秋元様!!」
"秋元様"
それは俺が遊郭に潜入していた時に使っていた偽名。
その時、何名か情報を得るためだけに近付いた遊女がいたのは覚えている。
でも、まさか…?
そんな半信半疑のまま振り返った先にいた女の姿に俺は目を見開いた。
「…詩乃…?」
「…?あきもと、?」
不思議そうな顔をして俺と詩乃を見るほの花に気まずさを感じざるを得ない。
まさかこんなところで会うと思わないだろう?
"お慕いしています"と言われた女に。