第39章 陽だまりの先へ(終)※
──ニコニコニコニコ
そんな効果音が聴こえてきそうなほど満面の笑みで私を見ている宇髄さんと店主の人の視線が痛い。
其処に並べられた装飾品はどれも素敵なものばかりで目移りしてしまうが、買う予定もなく此処にきた上に、欲しいものすらなかったので困惑するしかない。
モスリン生地の大きなリボンの髪飾りは可愛すぎる気がするし…
赤い石の付いた耳飾りは綺麗だけど耳飾りは何故かいらない気がした。
黄色の花が可愛い花飾りも可愛いんだけど…いらない気がするし…
消去法でどんどん外していくと目に止まったのは小さな花の形をした控えめなネックレス。
五芒星の首飾りは宇髄さんから陰陽師の一族だとバレる可能性があるから隠しておけと言われて懐にしまってある。
首元には特に装飾品をしたこともなかったのでそれを手に取る。
「あの、じゃあこれにします。おいくらですか?」
「おお!毎度ありがとうございます。お嬢さん目の付け所が違うねぇ!此れは"独逸"という国で作られた一級品だよ。」
「…独逸…。」
それは母の母国。
もちろん全く知り得なかったことだが、母に導かれたような気持ちにもなって少しだけ嬉しくなった。
しかし、店主の人は私ではなく宇髄さんにお勘定のための会計盆を置くので、慌ててお財布を取り出して「あの…」と声をかけるが、宇髄さんにその手を止められてしまった。
「自分の女に払わせるわけないだろ?」
「え…で、でも…」
困惑している私をよそに宇髄さんは流れるようにお会計をしてくれて、買ってくれたネックレスを直ぐに首につけてくれた。
「いいじゃん。似合ってる。んじゃ、また来るわ。」
「毎度あり〜。」
元気な店主の方の声と相反して、私はその場で「ありがとうございます…!」と小さな声をあげるだけ。
気にもせずに手を引いて歩いていく宇髄さんに申し訳なさと嬉しさとが交錯して感情の渋滞が起こっている。
「あ、の…!宇髄さん…!お金…!本当にいいんですか?」
「良いに決まってんじゃん。お前は俺の女だろ?こういう時は男に素直に買ってもらうもんだぜ?」
「え…?そうなん、ですか?」
私は宇髄さんが初めての恋人。記憶がある時もそうだったと思う。
だから恋人同士の振る舞い方は分からない。
宇髄さんがそう言うのであればそうなのだろう。