第39章 陽だまりの先へ(終)※
ずっと渡せずに手元にあるものがあった。
それはあの戦いの時から預かっていたもの。
前に俺があげた花飾りに耳飾り。
忘れ薬を飲まされる直前に行った花火大会で射的の景品でもらった玩具の指輪。
それはずっと目を覚ましたほの花に渡せずに俺が持ち続けていた。
目が覚めたら返そうと思っていたのだが、思いがけずにほの花の記憶がなくなってしまっていて返すに返せなかった。
目を覚ましたばかりの時はそんなことよりもほの花の体調に気を取られていてそれどころじゃなかった。
三週間ほど経った今、今度は別の理由で渡せなくなってしまった。
せっかく前向きに生き始めたほの花に過去に俺があげた贈り物など気に病ませるだけだと思ったからだ。
記憶がない自分でもいいのか?と言うことをずっと気にしていたほの花。
俺のことを再び好いてくれた今、水を差したくない。
好いてくれたと言っても前みたいに"愛してる"と自ら言ってくれるほどではないかもしれない。
ただ体に残った俺への想いに心が寄っていっているのだろう。
好きだと言ってくれていても前ほどの情熱はまだ感じない。
口づけをすれば恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしてくれるから"好き"でいてくれるのは間違いないとは思うが、愛し合っていたあの時のほの花ほどではない。
だけどそんなことはいい。過去は過去。今は今だ。
やり直す気でいるのだからそんなことは大した問題ではない。だから新しく贈り物をしてやろうと思ったのに、其処は前のほの花と全く変わらない。
そういうことに興味もないほの花は買ってやると言ってもどこ吹く風だ。
恋人からの贈り物に豆大福を強請る女なんてほの花くらいだろう。
そんな変わらない彼女にホッとしつつ、手元に残っている忘れ形見を捨てられずにいる。
今は今。
だけど、昔のほの花も忘れたくはない。
この時愛し合ったのも間違いなくほの花で、俺の腕を治してくれたのも間違いなくほの花。
どちらもほの花なのだ。
そこに優劣はない。
だから残ったその贈り物も俺が大切に持っていてやることもまた俺の役目でもあるのだ。