第39章 陽だまりの先へ(終)※
散歩に連れて行ってやろうと思って雛鶴にほの花の準備を頼んだのだが、十五分ほど経っても一向に帰ってこない二人にどうかしたのかと思い、部屋に向かった。
今思えば、向かってよかった。
そこで聞けたのはほの花の本音。
俺への想い。
まだそれは芽生えたばかりなのかもしれない。それでも確かにそこに俺への想いのかけらがある。
チラッと見えたそれに俺は夢中で飛びついた。
もう逃さない。絶対に離さない。
記憶があるとかないとか、そんなものはどうでもいいんだ。
ほの花がそこにいる。生きていることに意味がある。
気がついたら「好きになってもいいか?」と遠慮がちに言ってきたほの花を引き寄せて思いっきり口付けていた。
今のほの花からしたらはじめての口づけだろうに問答無用に一度口付けるとそれは止まらなくて何度も何度も角度を変えて唇を喰む。
やっとこの手に戻ってきたのだという安堵感で呼吸すら震えた。
そんな余裕のない俺は数分間口付けをし続けてしまっていたのだが、気が付いたら腕の中で真っ赤な顔をして惚けているほの花を見て漸く我に返った。
「あ…わ、悪ぃ…!だ、大丈夫か?ごめんな、初めて、だったよな?ごめん。」
「…へ、あ…い、いえ……あ、ひゃああぁああ…」
「お、おい…!」
突然倒れたのかと思ったら、座り込んで手で顔を覆っているほの花に懐かしさを覚えた。
そういえば、ほの花に初めて口付けした時も同じように恥ずかしそうに顔を真っ赤にして狼狽えていた。
こんな調子でまぐわいなんてできるのか?と思ったものだ。
まぁ、結局は俺の我慢も効かなくてついついほの花の色気に当てられて''初めて"を頂戴したわけだが。
真っ赤な顔をして蹲るほの花をそのまま抱き締めてやると口を開く。
「おーい、ほの花ちゃーん。このくらいでそんなんなってたらどうすんのよ。俺、性欲強ぇからな。お前にだけは。」
「ひ、ひぃ…っ…!!」
「おい!バケモンみてぇに俺を見るな!!」
それはまるで昔に戻ったようなやりとり。
どんなことがあってもやり直しはできる。
生きている限り、何度だって俺たちは愛し合えるんだ。