第39章 陽だまりの先へ(終)※
「38.5度な。はい、ほの花は暫く布団とお友達になってろ。いいな?」
脇に挟んでいた体温計を取り上げられると開口一番そんなことを言われてしまい、せっかく普通の生活になりつつあったのに逆戻りしてしまったことに悲しくなってしまった。
治ったら甘味を食べに連れて行ってくれると言ってくれたが一体いつのことになるやら…。
「明日、本当だったらアイツらが甘味食べに行くらしいから俺らも誘ってくれたんだけどよ。これじゃ、無理そうだしな。ゆっくり休め。」
「え…!?そうだったんですか…行きたかったです。」
「この熱じゃ無理だわ。明日、仮に下がってたとしても俺は許可しねぇぞ。お前は俺と留守番な。」
宇髄さんの口から"俺と留守番"と出たことで、自分が行けないことで宇髄さんまで行けないのだということを知って目を彷徨わせる。
「あ、あの…」
「"私は良いから宇髄さんは行ってきてください"なんて言ったら許可なく口付けしてやるぞ。」
「え、ええ…?!」
「お前がいねぇんなら俺だけ言っても邪魔なだけだろ?アイツら恋人同士なのによ。それとも何だよ、寂しく独り身で行ってこいってか?」
それを聞いてぶんぶんと首を振って宇髄さんの手を掴んだ。
「ち、ちがいます!ごめんなさい…!一緒に、ま、待っててくれますか?」
「ん、最初からそう言えよな。そばにいてほしいくせに。」
ツンと額を突っつかれると手拭いを手桶の水で冷やして再び乗せてくれた。
宇髄さんはやはり私のことをよく分かっている。
私の性質も性格も全部把握して甘えさせてくれている。大人の余裕なのかもしれないけど、今も私のことを好きだと言ってくれるその言葉が嘘ではないのだと思わせてくれる。
すると、宇髄さんが額から手を移動させて私の肩口にかかっている髪に触れた。
こんなに短くしたことなんてあっただろうか?
記憶の中の私は背中くらいまで伸ばしている髪型ばかりだったのでその首周りがスースーして少し寒いのが新鮮だった。
「…何処で切られちまったんだろうな?短いのも似合ってるけどよ、長いのも気に入ってたのに。くっそ、鬼畜生め…‼︎」
そう言って眉間に皺を寄せる宇髄さんだけど、髪ひとつでこんなに一喜一憂してくれてることが何だか嬉しかった。