第39章 陽だまりの先へ(終)※
煉獄さんがほの花をあそこまで怒ったのは自分の妻を亡くした時の喪失感と俺がほの花に記憶を忘れさせられた時のそれに感情移入したからかもしれない。
煉獄さんは愛する妻を亡くして酒に溺れた。
ほの花が記憶を消したことで、俺は意図せずに愛する人を失った。
愛する人を失うつらさを知っているからだ。
それを商売道具である薬を使って忘れさせたことで堪忍袋の尾が切れたのだろう。
チラッと寝ているほの花を見ると熱った顔をさせながらもスヤスヤと眠りに……
「おい、起きてんだろ?ほの花。狸寝入りすんなよな。」
ついていないことくらいすぐに分かる。
額に冷たい手拭いを置いてやったときに瞼が動いていたのでその時くらいに起きていたのだろう。
俺が声をかければおずおずと目を開けて、その黒曜石のような瞳に俺を映した。
「…狸寝入りしてたわけじゃ、ないです…。起きる機会を窺ってました…。」
「ん、ほら…体温計。熱計れ。まぁ、いいけどよ。煉獄さんの言葉聞いてたろ?治ったら薬持っていこうぜ。ついて行くからよ。」
「…はい。煉獄さんには一体何をしたんでしょうか。もういろいろ申し訳なさすぎて…。」
ほの花は体温計を受け取るとそれを腋窩に挟み、深いため息を吐いた。
まぁ、今回のことはほの花が自ら煉獄さんに話したと言うくらいだから、贖罪のつもりだったのかもしれない。
怒られるのを分かっていてわざと言い、自分のしたことを咎めてもらいたかったのかもな。
そうじゃなければわざわざ言う必要などどこにあるだろうか。
「過ぎちまったモンは仕方ねぇよ。お前は前を向いて堂々と生きりゃぁいい。それよりお前はよ、体調が悪ぃなら言えよな。熱が出るまで無理すんな。」
「…それは、すみませんでした…。気付かなかったんです…。」
「はぁ?!鈍感すぎるだろ。ったくよ、熱が下がったら甘味でも食べに連れて行ってやるから無理すんな。いいな?」
顔を赤らめたのは熱のせいだろうか。
ほんのりと熱った頬がほの花の表情に色をつけた。
それが情交中の時のような艶っぽさを醸し出していて俺は人知れずため息を吐いた。