第39章 陽だまりの先へ(終)※
「…倒したのか?上弦を。」
「ああ。随分と後輩に助けられちまったけど。何とか倒した。」
「……そうか。」
そう言ったきり、煉獄さんは暫く何も話さなかった。息子の杏寿郎のことでも思い出しているのだろうか。
煉獄もまた上弦の鬼と戦い、力尽きた。
だが、アイツはたった一人で後輩を守りきり、戦った。
すげぇ奴だ。
それだけ上弦の鬼の牙城は高いものなのだ。
元柱である煉獄さんならよく分かっているはず。
「…よく生きてたな。お前も…この子も。」
「ああ、後輩もあと三人生き残った。煉獄さんの息子が守ったあの三人だ。」
「…そうか。生き残ったか…。よかった。」
そうやってホッとしたような表情をする煉獄さんは父親の顔をしていた。
自分の息子が守った三人が生き残ることは嬉しいことだろう。命をかけて守った後輩なのだから。
「俺は柱を引退した。もうアイツらに…後輩に任せても良いだろうと思ってよ。それに左目を失って、左手は機能訓練の段階だ。もう即戦力にはなれねぇから。」
ほの花が治してくれた左腕は何とか動くが、ちゃんと動くようになるまではしっかり機能訓練が必要だと胡蝶に言われた。
元の通りに動くようになるかは五分五分だが生活に支障はない。刀を握れなくともいざという時にほの花の体を支えられたらそれでいい。
「…隠居すんのか。若ぇのに。ボケるぞ。」
「いやいや、後輩の育成に力を入れようと思ってるんでね。だからまだまだボケてはいられねえーな。」
「…その子に伝えておいてくれ。胃腸薬が無くなりそうだから体調が良くなったら持ってきてくれ、と。」
そういうと徐に立ち上がった煉獄さんに俺は声をかける。
「ん?許してくれんのか?ほの花のこと。」
その顔は此処に来た時の般若のような顔はしておらず、穏やかなものだった。
「…許すも何も…お前が納得しているのであれば第三者が口を出すことでもないだろう。それに…その子の薬は…、確かによく効くからな。」
「クソにげぇけどな。」
「ああ。最初飲んだ時、嫌がらせかと思ったが…、薬師としての腕は確かだ。納得はせずとも大人げない態度をとったことは私も悪かったからな。」
そう言うと煉獄さんは襖を開けて出て行った。
その後ろ姿は凛としていて元炎柱の佇まいだった。