第39章 陽だまりの先へ(終)※
最近、ほの花が玄関の掃除をするようになったのだが、始めてから数日で疲れたような表情をすることが増えていたので、注意深く見ていた。
すると、朝からいつもより顔色が悪いような気がしてほの花にそう聞いてみても「全然大丈夫です」と笑顔で言われてしまい、仕方なく様子を見ていた。
近くにいればほの花のため息や声が聴こえてくるからなるべく玄関に近い部屋で待っていると、ほの花の呼吸が少し荒くなったのと同時に聴いたことのある人物の怒鳴り声が聴こえてきた。
慌てて立ち上がり、玄関まで行くと其処にいたのは元炎柱である煉獄愼寿郎。
前炎柱の杏寿郎の父親だ。
ほの花と接点があるとは思いもしなかったのでまずは其処に驚いたが、掴みかかり殴りそうな勢いだったのでひとまずほの花を引き寄せて煉獄さんを窘める。
しかし、引き寄せたほの花の体が思ったよりも熱くてぐったりと俺の腕にもたれかけるようにしなだれかかってきたので眉間に皺を寄せる。
(…まだ時期尚早だったかもな。早く寝かせてやらねぇと。)
明らかに体調が悪いほの花を抱えると怒り狂っていた煉獄さんを何とか屋敷の中へと促した。
渋々着いてきてくれてはいるが、ほの花の様子に少しだけバツが悪そうな表情にも見受けられる。
俺の部屋に案内すると布団を敷いてやり、其処にほの花を寝かせると、須磨に茶を頼んだ。
「何故それを知ってるんです?俺が忘れ薬を飲まされてたこと。」
「…その女が自らそう言ってきたんだ。俺がお前がよく継子の恋人の惚気を言いにきてたことを言ったら自分は恋人じゃないと抜かすから不思議に思って問い詰めたらそう吐きやがった。お前はみすみす何をされてるんだ!?馬鹿なのか?」
「ハハッ、馬鹿なのかもしれねぇな!愛してる女が思い詰めてることに気付きもしなかったんだ。」
なるほど、煉獄さんは一本木な性格だ。
どんな理由があろうと薬を使って俺の記憶を消すと言うことは"逃げた"と捉えるだろう。
でも、そこには確かにほの花の底知れぬ愛があった。
男にはなかなか理解しきれない繊細な女子ならではの愛なんだろうな。
俺も最初は理解することもできなかった。