第39章 陽だまりの先へ(終)※
「貴様…!死んだと見せかけて生きておったとはとんだ悪女だな!何事もなかったかのように宇髄の家で暮らそうという魂胆か!?性悪女め!!」
「え…、と…」
頭がぼーっとする。
この人は私に怒っているのだろうけど、なかなか頭に入ってこない。
それどころか一歩でも動けば目眩で倒れそうだ。
しかし、何も言い返さない私に腹が立ったのか、それとも余程前の私が怒らせていたかは分からないが、胸ぐらを掴まれそうになった時、グイッと腰を引き寄せられた。
その瞬間、香る匂いと逞ましい腕にそれが誰なのかすぐに理解する。
「…宇髄、さん…」
「おー、煉獄さんじゃないか。うちのほの花に何か?」
(煉獄さん…?)
その名前は…何処かで聞いたことがあるような気がした。
何処で聞いたのかは思い出せない。
でも、確かに知っている気がしたのだ。
「貴様…!その女に騙されておるのが分からんのか?!音柱ともあろう奴が女に騙されて忘れ薬を飲まされるとは…!」
「……?何だよ、煉獄さんも知ってたのか。だけどよ、俺もう元に戻ったんだよ。思い出したんだ。」
「……はぁ?!お、思い出した…?と言うことはその女を許したのか?!そんな卑怯者の女を!!」
「んー、話せば長くなるけど、とりあえず茶でも出すから入ってくれねぇかな?ほの花を寝かせてやらねぇと。」
頭の上で繰り広げられる会話に私は虫の息。
それに入ることもできないまま、意識を失いかけていた。
すると、体を支えてくれていた宇髄さんが私を抱き上げて玄関の扉を開けた。
「ほら、煉獄さん。茶でもしばこうぜ。」
宇髄さんのその声を最後に私の意識は途切れた。
その人が一体誰なのか?
何で私に敵意剥き出しだったのか?
分からないながらにも自分が宇髄さん達にしたことで周りを巻き込んでしまったことは少し考えれば分かる。
あの人もきっと私が巻き込んでしまったのかもしれない。
額に冷たい感触がしたと思うと、聴覚だけが妙に研ぎ澄まされて誰かの会話が聴こえてきた。
誰の声だろう…?と耳を澄ませて聴いていると一人はその声だけでホッとしてしまう宇髄さん。
もう一人が先ほど怒っていた"煉獄さん"と呼ばれたあの人の声だった。