第39章 陽だまりの先へ(終)※
宇髄さんが持ってきてくれたお茶はとても美味しくて温かさが外の空気と比例して気持ちよかった。
美味しいお茶を一口飲むと、宇髄さんは徐に口を開いた。
「なぁ、ほの花。」
「はい?何でしょうか?」
「俺のこと聞いたんだろ?瑠璃に。」
「…え?」
何のことなのか分からないと言えば分からない。
確信がなかったけど、宇髄さんの顔が優しく笑っていて思わず目線を逸らしてしまった。
「…え、と…、何のことでしょうか。」
「じゃあさ、独り言言うわ。勝手に喋るから気にすんなよ。」
知らないフリをしたわけではない。
確信がなかったから思わずそう言ってしまっただけの話。
「俺はさ、お前のこと今でも愛してる。」
「っ…!」
「でも、ほの花が俺のこと覚えてないのは分かってるし、恋人に見えないのも仕方ない。無理強いするつもりはねぇよ。」
「う、宇髄、さん…」
宇髄さんはてっぺんに昇っているお日様を目を細めて見つめながら言葉を続ける。
「無理強いはしねぇけど、俺はほの花とのことは諦めねぇから。」
「え…、あ、あの、…」
「ほの花はさ、俺の左腕を治癒能力を使って治してくれたあとすぐ心臓は止まっちまったんだ。」
それは初めて聞いたこと。
使い過ぎで生死を彷徨ったとは聞いていたが詳しいことまでは知らなかったのだ。
悲しそうに少しだけ目線を下げた宇髄さんだったが、再びお日様を見上げて話を続ける。
「一時間近く心臓を押し続けたけど、全然動かなくてよ…。怖くて怖くてたまらなかった。ほの花がいなくなっちまうって…。自分の記憶が戻ってもお前がいないんじゃ意味がないからよ。」
「宇髄さん…」
「…奇跡的に蘇生できたのに今度はお前の記憶が無くなっちまったけど、記憶がないことを知ってもさ、俺の気持ちはブレなかった。どんなほの花でも生きてさえいてくれればそれでいい。」
痛いほど宇髄さんの気持ちが伝わってきて、胸が締め付けられた。
この人は本当に本当に私のことを全身全霊で愛してくれていたんだ。
そう感じさせてくれる。
言葉にしてくれる。
そばにいるだけで感じるこの安心感が今のわたしの命綱だと思っていたけど、ずっと前から私はこの人に命を救われてきたんだろう。