第39章 陽だまりの先へ(終)※
「一人相撲をとっていたんですね、私は…」
どう考えても恥ずかしいことをしてしまっていた。記憶があって過去に戻れるならば私も自分にビンタをしたいくらいだった。
でも、目の前の瑠璃さんは柔らかく笑うと首を振った。
「…確かにね、天元の気持ちを無視してそんなことしたことは腹が立って殴っちゃったけど…あんたはあんたで凄い悩んで苦しんでいたのよ。そこは認めてあげて。」
「でも…!私、皆さんに迷惑をかけて…!」
「それは結果論でしょ。その時のほの花は本当に一途に天元を想って、"鬼殺隊"の未来のために選択したんじゃない?それは誰にでもできることではないわ。」
きっと今の宇髄さんの発言や行動を見るに、彼の記憶もあの六人の記憶も元に戻っているのだろう。そんなことをしても尚、私のことを受け入れてくれた彼らに私は何を返せるだろうか?
そんな途方もない優しさをどうやって返していけば良いだろうか?
「…ほの花は一人で戦っていた。あんたがそれを否定したら駄目よ。あんたはすごくあんたなりに茨の道で勇敢に戦っていたわ。」
「……そうでしょうか。」
「まぁ、褒められるところばかりじゃないけど、いいんじゃない?人間、誰かに多かれ少なかれ迷惑をかけて生きていくものよ。それが生きるってことでしょ?」
「…生きる…。」
「あんたは"生かされた"。やっと何の枷もなく天元に甘えられるんだから今度こそ幸せな道を選択すべきよ。それがあんたのすべきこと。」
幸せな道を選択すること
何もかもがわからない私がそれをすることに若干の抵抗がある。
でも、毎日毎日私の看病をしてくれた宇髄さんは私を生きることを望んでくれていたのだろう。
まだ俄には信じられない。
彼が恋人だったと言う事実。
こんなにも彼がそばにいて安心したのは彼をずっと私も愛していたからだと分かる。
今の私ではちゃんとそう伝えられないのが残念だけど、生かされた意味をちゃんと考えないといけないのかもしれない。
「…私は、幸せ者ですね。」
「そうね。でも、あんたのおかげで幸せだと感じてる人間もいるってことも忘れないで。人は一人では生きていけないし、誰しもが生まれてきたこと自体に意味があるの。あんたはその意味にも成り得るのよ。」
瑠璃さんの言葉が胸に突き刺さってじわりと温かくなっていく。