第39章 陽だまりの先へ(終)※
目を見開いたまま固まってしまった私に瑠璃さんは苦笑いをしながら少しだけ近づき、手を握ってくれた。
「こーら、そんな顔しないで?今は何でもないんだから。私はね、フラれたの。アイツに。もうどうでも良いわ、あんな奴。」
「へ、え…?あ、いや、…その…」
「記憶を無くして『あんた誰?』状態だとは思うけど、ほの花のことは妹みたいに思ってたの。あんただって私が帰る時号泣して引き止めてきたくらいだったのよ?」
「えぇ?!そうなんですか…?そ、その節はとんだ御無礼を…」
瑠璃さんは会ったばかりだと言うのに、確かに話しやすい。
それは自分の体に残っている瑠璃さんに対する親しみなのか、それとも瑠璃さんの会話能力が高いのかは分からない。
自然に私が話しやすいように配慮してくれているのが分かり、目尻が下がる。
「全然?むしろ嬉しかったのよ。私、昔はほの花にちょっと意地悪したことがあってね。それなのに私のこと慕ってくれて本当に救われたの。」
「意地悪?えーー?全然見えないです…!それが本当なら私は瑠璃さんのこと本当に大好きだったんですね。今もとても話しやすくて初めて会った気がしません。」
雛鶴さん達とは違った雰囲気だけど、瑠璃さんの言葉は真っ直ぐで其処に嘘やお世辞を感じない。
本音で話してくれているのが伝わってくる。
「そう?良かった。本当は今日あんたに会ったら色々叱ってやって、今度は私の愚痴でも付き合ってもらおうと思ってたの。でも、記憶がないんじゃ叱っても意味わかんないだろうし、愚痴だけ聞いてくれる?」
叱る…?
そう言われて気になるのは愚痴よりも"叱る"必要があった内容だ。
意味もわからず叱られるのは確かに嫌だけど、記憶がない中で少しでも過去を取り戻したいと思っている自分がいるのもまた本当で、瑠璃さんの言葉に頷きながらも口を開く。
「愚痴も、聞きたいんですけど…、叱る内容も気になります。聞いても良いですか?」
「え?叱られたいの?意味わかんないと思うわよ?」
僅か会って数分なのに此処に住んでいる誰よりも瑠璃さんが一番、私に気を遣わず思いっきり本音と真実を話してくれそうと思った。
彼女の人柄と性格がそれだけ体から滲み出ていたから。