第39章 陽だまりの先へ(終)※
客間に入ると、適当に座布団をすすめてやり瑠璃を座らせる。
「いま、誰かに茶を…」
「そんなの良いからさっさと話しなさいよね。私はほの花に会いに来たって言ってるでしょ?具合悪いなら誰かそばにいなくていいわけ?」
「あー、いや。まぁ。そうなんだけどよ…」
歯切れの悪い俺に苛ついた様子を見せる瑠璃を何とか窘めて座ってもらうが、明らかに機嫌が悪い。
俺の記憶が元に戻ったのであれば、余計に万々歳で何も弊害なんてないだろう?とでもいいたげだ。
「何なの?はっきり言いなさいよ。ほの花と元鞘に戻ったんでしょ?良かったじゃない。」
「あー、いや…それが、元鞘に…戻ったわけじゃないっつーか…」
「はぁ?!あんたそれでも男なの?!記憶戻ったんならほの花を押し倒してでも自分のモノにしちゃえばいいじゃない。」
「おいおいおい…」
たまに思う。
瑠璃はめちゃくちゃ男らしい。
いや、女なのだけど。
確かに瑠璃の言う通り、お互いに記憶があれば俺だって直ぐにでもほの花をこの腕に抱いていたことだろう。
だけどそれができない理由があるのだ。
「まさかまだウジウジして元鞘に戻ってないとは思わなかったわ。」
「ウジウジしてるわけじゃねぇんだって。のっぴきならない事情があるわけで…」
「だから何なのよ?はっきり言いなさいよ。」
「ほの花が生死の境を彷徨ったせいで記憶がぶっ飛んだ。」
「…………は?」
早くはっきり言えと言うモノだから、そのまま淡々と言ってやったのに、今度は目をまんまるにして聞き返してきた。
だが、その反応もわからないわけではない。
「…………は?」
「何回も言うな。わぁーってるって。」
「は?!」
「いや、だから…」
「はぁーーーー?!あの子、大丈夫なわけ?!生きてんのよね?体は?!今どう言う状態なの?!」
瑠璃は座卓越しに身を乗り出して詰め寄ってくるので一瞬仰反ったが、その内容が記憶がないことよりも体のことを気にしていることに目尻を下げた。
あんなに仲悪かったくせに今やまるで妹の心配をする姉のようにしか見えない。
ほの花につらい思いをさせたことは今でも悪いことをしたとは思うが、瑠璃と出会えたことはほの花にとっては良いことだったのかも知れない。