第39章 陽だまりの先へ(終)※
「お邪魔しまーす。ほの花ー?来たわよー!」
昼前に聴こえてきたその声に俺は慌てて玄関に向かって走っていった。
其処には既にまきをと須磨が陣取って、瑠璃を制止してくれている。
「瑠璃さん!ちょっと!ちょっと待ってください!」
「はぁ?何?ほの花に会いに来ただけじゃない。閉め出し喰らうわけ?」
「違いますーー!天元様がお話があるって言ってたんですぅ!!」
必死に止めてくれているところに到着するや否や、瑠璃は俺を見て呆れた表情を向けてきた。
前に来た時は俺の記憶がなかった。
瑠璃とほの花が何故仲が良かったのか理解できなくて、随分と思案した。
でも、今度はほの花の記憶がない。
瑠璃からしてみれば次から次へと…と言った状態だろう。
「よぉ。悪ぃな。ちと、話があるんだ。」
「何なの?ほの花はいないわけ?」
「いるぜ?今、具合が悪くて寝てるからよ。先に話をしてぇ。」
「え?どうかしたの?」
「それも併せて話すからよ。とりあえずこっちへ来い。」
俺は瑠璃を手招きすると、客間に連れて行くことにした。
黙って俺の後ろをついてきてくれているが、瑠璃の洞察力の鋭さは健在だ。
俺の背中に向かって核心をつくような発言をした。
「…あんた、…ひょっとして思い出した?」
「…まぁね。」
「やっぱり…。」
「何で分かった?」
「空気。ほの花のことを話すあんたが前のほの花に骨抜きだった時の天元だもの。」
「ハハッ、骨抜きか。違いねぇ。」
正直に言えば、嫁たちがいるということで抑制していたが、記憶がない時も俺は始終ほの花のことばかり考えていた。
いつでもどこでも何度でも
結局俺はほの花に骨抜きになる運命なのかもしれない。
「…私、その時ほの花をめちゃくちゃ助けてあげたんだから滞在中の費用はあんたが全部出しなさいよ。」
「へーへー。仰せのままに。俺の女が世話になったな。」
「……でも、良かった。」
そう言ってホッとしたような顔をする瑠璃には申し訳ないが、これから伝えないといけないことはまだ"心から良かった"と言えるようなものではないのだから。
俺は天井を見上げながら人知れずため息を吐いた。