第39章 陽だまりの先へ(終)※
「此処がお前の部屋。とりあえず布団は敷いておいたから疲れたらいつでも横になって寝てろよ?」
「あ、は、はい…!ありがとうございます!」
熱烈な歓迎を受けた後、宇髄さんに手を引かれて連れて行かれたところは私の部屋だと言う。
でも、不思議と体が覚えているのか宇髄さんが進む方向に全く違和感がなかった。
其処に自分の部屋があるような気がしていたのだ。
開かれた襖の中に入っても同じ。
知らない部屋のはずなのに、何故か箪笥の中には何が入っているのか奥の襖の向こうは庭に繋がっている、とかそういうことが何故だか分かる。
記憶を失ったと言うことが最初は頭では分かっていても半信半疑だったが、此処まで来ると信じざるを得ない。
一歩、踏み出して部屋の中に入ると懐かしささえ感じてしまった。
無理をできない体のため、疲れやすさは否めない。胡蝶さんのお屋敷から此処まで帰ってくるのも宇髄さんに抱き上げられてきたと言うのに、布団を見るとホッとしてしまった。
「昼餉まで時間もあるからよ、ちょっと横になってたらどうだ?疲れたんじゃねぇの?」
「え…?!」
「ハハッ、図星だろ?疲れたって顔してる。夜着出してやるから寝てろよ。」
そう言うと慣れた手つきで箪笥の中にしまっていた夜着を取り出すとそれを私に渡してくれた。
「宇髄さんって…なんでも分かってしまうんですね?すごいです…。ごめんなさい。体力無くて…」
「あのなぁ、二ヶ月も目が覚めなかったんだぜ?体力落ちるのは当たり前だろ?気にしなくて良いから着替えて寝てろ。」
宇髄さんは私の頭をぽんぽんと撫でると、「また後で来るわ」と言って出ていってしまった。
その姿にまたもや違和感を覚えた。
よく考えれば着替えるから出て行ってくれたのだと思うけど、最初何故出ていってしまうのかわからずに寂しくなってしまったのだ。
着替えまでさせていたわけではない、だろう。
師匠相手にそんなことさせていたのであれば師弟関係というより親子か兄妹ではないか。
だけど、その関係性はしっくりこない。
ただ宇髄さんが出ていってしまった襖を少しの間じっと見つめるとため息を吐き、出してくれたそれに着替えを始めた。