第39章 陽だまりの先へ(終)※
「あ、あのさ!今日、来たのは…昨日のこと、謝ろうと思ったからなんだ!」
突然そんなことを言い始めた炭治郎くんに私はキョトンと首を傾げることしかできない。
どういうことなのか?
昨日、彼に謝られるようなことをしたのか?全く身に覚えがなくて二の句が告げずにいると、炭治郎くんは視線を彷徨わせながらも私を見てゆっくりと口を開いた。
「…宇髄さんのこと覚えてないことを責めるような口調で言っちゃっただろ?…ごめん。ほの花。」
── な、何言ってるんだよ?!ほの花…‼︎宇髄さんだぞ?!
そう言われれば、昨日炭治郎くんが狼狽えた様子で食ってかかった理由は宇髄さんのことを私が覚えていないからだったように思う。
それを謝りたいと言われても今の今まで忘れていたし、たいして気にもしてなかった私は首を振った。
「…ううん。全然気にしてないです!でも…、宇髄さんは…今日まだ来てないんですよ…」
「え…?あ、そっかぁ。用事でもあるのかな。」
「あ、いや…く、来るって言ってたわけでもないんです…!ただ…昨日私が即答して宇髄さんの家に行くって言わなかったから…い、嫌な想いさせちゃったのかな…って」
言葉にしてしまうと益々罪悪感から鼻の奥がツンとして、目に涙が溜まっていく。
昨日会ったばかりのよく知らない人に今日会えていないからといって何を泣くことがあるのだろうか。
自分の涙の意味がわからない。
当然、急に涙ぐんだ私を見て炭治郎くんは慌てふためいている。
必死に涙を拭いて笑顔を作ろうとするが、一度涙が溢れてしまえばなかなか止めることはできない。
ひっく、ひっく…と自分の吃逆だけが部屋の中に響いていて、何とも情けない。
でも、炭治郎くんは寝台の横に置いてあった椅子に座ったままずっと泣き止むのを待っていてくれた。
恐らく年下だろうに、その優しい眼差しが兄のようにも感じてしまい、今度は兄達がもうこの世にいないと言うことが悲しくて涙が止まらなくなってしまった。
怖い
寂しい
悲しい
一人にしないで。
そんな感情が頭の中に溢れてしまい、私は小一時間その場で泣き続けた。