第39章 陽だまりの先へ(終)※
目が覚めた瞬間、目の前にいたのは宇髄天元さんと言うらしい。
懐かしさを感じたのは私が記憶を失っているからだと言うことが分かった。
情報量が凄すぎて整理するのに時間がかかりそうだ。
何しろ私は陰陽師の里にいた時の記憶しかない。
鬼ってなに?
鬼殺隊ってなに?
なに、なに、なに…?
その場にいたのは宇髄天元さんの他に、竈門炭治郎さん。記憶がない私が宇髄さんを分からないことが信じられない様子だった。
そして後から来たのは胡蝶しのぶさん。
全員、鬼殺隊の一員だと言う。
誰なのか分からない。
でも、知らない人の筈なのに"知らない"と言うことが憚られるような気もした。
しかも、両親から何度も何度も使うな、誰にも言うなと言われていた治癒能力をこの三人は全員知っていた。
そのことも頭の許容量が溢れてしまいそうなほどに驚いた。
でも、その日一番驚いたのは家族が…、陰陽師の里が既に無くなっていたということ。
鬼に全滅させられたらしい。
自分だけ助かったのかと思いきや、宇髄さんは正宗達が自分の家に住んでいると言うことも教えてくれたことで、少しだけホッとした。
知っている人の名前を聞けるだけで、自分のいるところが間違っていないのだと思わせてくれる。
口々に体の具合を聞いてくれるのは私が治癒能力の使いすぎで生死を彷徨ったかららしい。
確かにそれも驚くべきことなのだが、既に治癒能力があることを伝えているならば、それを使っていたとしても其処まで驚くような内容ではなかった。
それに体の怠さと来たら鉛のようだし、力の使いすぎと言われて納得せざるを得なかったのだ。
四十度の熱が二週間も続いていたらしいし、脳に異常をきたしても仕方ない。
ひょっとしたらあまりに高熱が続いたために脳が錯乱状態になっていて、記憶が飛んでいる可能性もある。
それならば直に元に戻る可能性もあるだろう。
だから戸惑ってしまった。
胡蝶さんからあと一週間ほどで退院できると言われた時。
故郷が無くなった今、帰る場所などないのだから。
そう思っていたのに。
私の居場所は既にあるといわれたら驚くしかないと思う。
ただその日はいろんな情報が入りすぎて脳が爆発しそうなほどだった。
気まずそうに笑う宇髄さんに少しだけ申し訳ないと思いながらも考える時間をもらうことにした。