第39章 陽だまりの先へ(終)※
──目が覚めたら知らないところだった。
ずっとずっと誰かが私に話しかけてくれてたの。
優しく「ほの花」って呼んでくれていて、「戻ってこい」って言うの。
あなたは誰で、一体何処に戻ってこいと言っているのか分からなかった。
其処は真っ暗闇の中。
右も左も上も下も分からない。どちらにいけば良いかも分からない。
暫くは当てもなく歩いてみたけど、すぐに疲れてしまってその場に寝転んだ。
お腹も空かないし、眠くもならない。
"無"の世界で悲しみも喜びも何もない。
私は死んだの?
それすらも不確かな其処で発狂せずにいられたのはその声のおかげだった。
ずっとずっと声が聴こえてきた。
でも、どこから聴こえて来るのかも分からなくてその場に留まることしか出来なかった。
でも、ある日突然、上から光が差した。
おひさまのような暖かい陽射しは私を照らして、其処から見覚えのある手が差し出された。
「ほの花」
「待ってる。」
「戻ってこい。」
優しい声に大きな手が私を導いてくれた。
ふわりと浮いた体が吸い寄せられるようにその手に向かっていく。
其処で私は無の世界で初めて笑った。
嬉しくて嬉しくて泣きそうになった。
差し出された手が目の前まで来ると迷わずそれを掴んだ。
それなのに目が覚めたら其処は全く見覚えのない場所。
目の前にいた人も知らない人たち。
せっかく掴んだ手は一体誰のものだったのかわからず少しだけがっかりした。
でも、目の前にいる男の人が、私を見て笑った。
それを見た瞬間、何故か胸が締め付けられて苦しくなった。
ただそれと同時に鼻がツンとして何故か泣きたい気分にもなる。
「………あの……どなたですか…?」
絞り出すようにして出した声は随分と久しぶりに出したのか小さくしか出せなくて驚いた。
それ以上に目の前にいる二人の男性が目を見開いたことで私なんかよりもずっと驚いていることが見てわかる。
「…ほの花…。」
知らない人。
知らない人たち。
その筈なのに名前を呼んでくれた目の前の男性の声はどこか懐かしい。
あなたは…一体誰なの?