第39章 陽だまりの先へ(終)※
胡蝶の質問は意外にも専門的なこと。
傷薬の調合の仕方や鎮静剤の材料、薬草の種類など。
薬師としての知識に関すること。
そして簡単な計算式や手のひらに文字を書いてみたりして脳の機能を確認しているようだった。
「はい。いいですよ。ありがとうございます。」
フゥッと安堵の息がほの花から漏れる。
緊張していたのだろう。俺は思わずほの花の背中を撫でてやると少しだけビクッと肩を震わせたので一瞬"しまった"と手を止めた。
しかし、すぐにふわりと笑ったので迷ったがそのまま背中に手を這わせて、撫でてやった。
「ほの花さん、今はあなたが思っているよりも一年半ほど時が経っています。二ヶ月ほど昏睡状態が続いていたので心配していましたが、脳の機能には問題ないようですね。良かったです。」
「ありがとう、ございます。」
「でも、あなたは二週間ほど四十度の高熱が続いていたことで少しだけ記憶を司る分野に影響を与えてしまったのでしょう。」
「なるほど…。」
胡蝶はほの花に淡々といまの状況を伝えるが、ほの花も医療者。
この時は薬師としての活動はしていなかったようだが、母親からの知識は健在のようだし、胡蝶の言っていることも理解できるのだろう。
話の内容にしっかりと納得しているようだった。
俺と竈門の方がキョトンと首を傾げるくらいだ。
「あと…治癒能力の件ですが…、」
そう言いかけた胡蝶に再びほの花の肩が震える。
そりゃあそうだ。此処にいる人間にほの花の機密事項が洩れに洩れまくっているのだから。
誰にも言ってはいけないと正宗達にすら言っていなかった能力。
それなのに初めて会った人間全員がそのことを知っている。
そんな異常なことがあっていいのか?
ほの花が動揺するのは当たり前だ。
「ほの花、此処にいる人間は皆、その能力のことをお前自ら話した奴らばかりだ。信頼していい。大丈夫だ。」
「…そ、うなんですか…?」
「ああ、ごめんなさい!配慮が足りなくて…。」
俺の言葉に胡蝶が謝れば、慌ててブンブンと首を振り、大きく息をひとつ吐き、「大丈夫です。」と言って笑顔で話の続きを促した。