第39章 陽だまりの先へ(終)※
──バタバタバタバタ…ガラッ
「ほの花さん…!!」
俺がほの花に話をしていると煩い足音と共に入ってきたのはいつもは冷静な胡蝶だった。
その後ろには竈門が額に汗を掻きながら戸惑いながら此方を見ている。
「…え…、あ…と、…お、お邪魔しています…!」
「………」
今此処にいる奴らは全員目が点だ。
"お邪魔しています"と言って寝たまま会釈をしたほの花だけが真剣な顔で胡蝶を見ているが、正直空気は和んだ。
「…お前な…、お邪魔してたのは二ヶ月も前だぞ…?」
「え…!あ、そ、そっか…!え、と…お邪魔してました…!」
「も、もういい…やめとけ…全く、お前は…!ハハハッ…!」
恥ずかしそうに布団で顔を隠しながら俺を見ているほの花が可愛くてつい意地悪をしたくなってしまう。
だが、そんな俺たちの様子に呆気に取られていたのは胡蝶で、コホンという咳払いをするとほの花の前まで歩み寄り声をかけた。
「…竈門くんから少し聞きました。此処最近のことを覚えていないんですね…?」
「そ、そのようでして…。えと、初めまして、じゃない…久しぶりまして…!神楽ほの花です。」
「ひ、久しぶり、まして…。ふふふ、ッ、胡蝶しのぶです。」
しかしながら、ほの花の心臓はドキンドキンと高鳴っていて、それが緊張だと言うのがすぐに分かる。
記憶を無くしたと言っても俺の時とはまたわけが違う。俺はほの花との関係性だけが分からなくなっていただけだが、ほの花の場合は此処に来るまでの経緯すら分からない。
出会う前に戻ってしまっているのだから不安なのは当たり前だ。
ドキンドキンと煩い心臓はあの日、止まってしまっていたとは思えないほど元気でそれは凄く安心したが、やはり精神的にはかなり負担は大きいだろう。
「宇髄さんから鬼殺隊のことは聞きましたか?」
「はい。」
「私からもいくつか質問してもいいですか?」
胡蝶のその問いに笑顔で頷くほの花だが、チラッと俺の方を見たその視線が不安げに揺れていたので笑顔を向けてやる。
数分のことでも生まれたばかりの雛鳥のように最初に見た人間に親近感を湧いてくれたのならば理由はどうであれ嬉しかった。