第39章 陽だまりの先へ(終)※
曇りなき眼で俺を見上げるほの花に一瞬たじろぐが、此処で嘘をついたり、誤魔化したりしても意味がない。
いずれ知ることになる。それは避けられない。
「…ほの花、落ち着いて聞けよ?」
「…え?は、はい。」
「…お前の里…、陰陽師の里はもうない。」
絶句、口を開け広げたまま目を瞬かせるほの花の表情は驚きが大きいが、だんだんと悲しみの色が加わっていく。
顔色もみるみる内に変わっていき、真っ青だ。
「え、と…、な、ない?」
必死に受け止めようとしてるのは分かる。
冗談なんじゃ…と言う少しばかりの期待も入り混じるその表情に俺も居た堪れない。
「ああ。鬼に全滅させられた。お前の家族も…正宗達の家族ももういない。これは…形見だろ?預かってた。」
そう言って渡したのはほの花が前に肌身離さず付けていた五芒星の首飾り。陰陽師神楽家に代々伝わる代物らしくて当主が受け継ぐそれ。
ほの花は元々、当主になる予定などなかったが、唯一の生き残りなのだからそれを形見として持ってきたようだった。
俺が渡した首飾りを震える手で受け取ると、その瞳が揺れていた。
「…それで…此方に来たんですね…?私も…鬼殺隊だったんでしょうか?」
なんとなく状況を把握したのか首飾りを握りしめたまま俺を視界に入れた。
「…ああ。…ほの花は、俺の…継子だった。」
「ツグコ…?」
「弟子みてぇなもんだな。」
「え…!お、お師匠様…!そ、それは失礼しました…!」
何だろうな、ほの花。
前はお前が自ら俺のことを師匠扱いしてきたのに、今度は俺がお前を継子扱いしないといけないなんて…皮肉だな。
"継子"と聞いて途端に恭しい態度になるほの花を制して首を振る。
どちらにしても俺はもう柱じゃない。
お前の師匠の役目は終わった。
「いや、もう師匠じゃねぇよ。」
「え…?」
「前の鬼との戦いで左目と左手を失ってよ。戦線復帰しても今までみたいには戦えないから引退したんだ。」
俺の言葉を受けてすぐに左目と左手を見つめるが、眼帯をしている左目と違い、左手がしっかりと其処にあることにほの花が何度か俺を見た。