第38章 何度生まれ変わっても
それから一ヶ月が過ぎ、二ヶ月になろうとしていた。
ほの花の熱は何とか二週間強で突然下がった。ある日突然、急に。
そのおかげで苦しそうな表情をしなくなったのは良かったが、残念ながらまだ目を覚さない。
俺は変わらず毎日毎日此処に通い、ほの花の顔を見て一日を過ごした。離れていた時間を埋めるようにほの花に語りかける。
やれ天気がいいだの
昨日、同居してるアイツらがどうした、こうしたと他愛のない会話を一方的に話す。
脳は聞いているかもしれないし、俺の声に反応して起きてくれないかという邪な気持ちもあった。
善逸は時間があれば白い花を摘んで持ってきた。
秋桜の時もあればシロツメクサの時もあった。
一度、菊を摘んできた時には「まだ死んでねぇわ!!」とぶっ飛ばしてやったら、次からは花の種類をやたらと調べてから持ってくるようになった。
ほの花が甘味が好きだったと話せば、自分も甘い物が好きらしくてほの花の分の甘味を買って此処で茶をしばいて帰ることもあった。
「御供物みたいに持って来んなよな」と言えば、「だって匂いで起きるかもしれないじゃないですか!」と人の女を動物扱いしてきたことに一瞬腹も立つが、ほの花の甘味好きは相当なもので怒るに怒れなかった。
任務に復帰してからは頻度は減ったが、たまに会いに来てくれるのでほの花も嬉しいだろう。同期の奴らとは仲良くしていたのだから。
すっかり冬になってしまったが、今日は暖かい陽射しが窓から差し込んでいる。
まるでほの花のように。
眠ったままのほの花の頬に指を這わせると優しく撫でてやった。
起きていれば擽ったそうに身を捩るアイツが懐かしい。既に動いているほの花を見られなくなって二ヶ月。
毎日毎日顔を見ていたとしてもほの花不足は否めない。
頬に手を添えたまま触れるだけの口づけをしてやると後ろの扉がガラッと音を立てた。
「え、あ…!し、失礼しました…!!!」
善逸ではない。
でも、見知った顔だったので、ほの花から手を外すと扉の外に迎えに行った。