第38章 何度生まれ変わっても
お館様は俺の願いを「もちろんだよ。ありがとう」と言って受け入れてくれた。
柱としての自分の役目は終わった。
そう考えるとお館様の屋敷を出た時、晴々しい気分になる。
「ほの花の目が覚めたら一度二人で会いにきてくれると嬉しい。ほの花にもちゃんと謝って二人の幸せそうな顔を見たいんだ。冥土の土産に。はははっ」
最後にとんでもない黒い冗談を言ってくれるものだから縁起でもないと顔を引き攣らせたが、お館様の体は刻一刻と悪くなっているのは間違いないようだ。
医療者でない俺ですらそう感じたほど。
ほの花であれば、薬の調合時に気に病んで力を使ってしまう理由も分からないでもないと。
俺があそこまで強く約束させたから言えなかったのだとすれば…話しやすいような空気感を出してやれなかった俺自身にもやはり問題がある。
好きな女一人甘やかしてやれないでどの口が幸せにしてやるなんて言っていたのか。
大怪我をしていたが毒は竈門妹が治してくれて、
左腕はほの花が直してくれたおかげで頑丈な俺は今日から家に戻ることになった。
お館様の屋敷から帰り道にはあの呉服屋がある。
あの日、藁をもすがる想いで女将に聞きに言ったこと。
縦縞しじらの浴衣の正体。
分かってしまえば何てことない。
やはり俺はほの花以外に興味もないし、ほの花にもらったあの浴衣がどれほど嬉しかったのか今でもしっかり覚えている。
だが、あれを選んでくれたほの花の姿を第三者から聞いたことはなかったので、聞けてよかったとも思う。
俺のことを想い、考え、選んでくれたあの浴衣。
だからあの時ほの花は"分からない"と言うだけで決して否定はしなかった。
肯定もしなかったが、其処にほの花の絶対的作戦に初めて綻びが出たんだ。
言い訳も出来たのにしなかった。
今思えば…あの時、ほの花は俺のために選んだ自分を否定したくなかったんじゃないかと思う。
もう二度と一緒にならないと決めていたとしても。
選んでくれた其れはほの花にとっても俺にとっても初めての経験。
記憶は消せても物は残る。
そしてその物が残っていればいつかきっとお互いの想いを再び繋ぐ。
いずれにしても俺はほの花を思い出していただろう。忘れられるわけがないのだ。