第38章 何度生まれ変わっても
「…残念ながら寿命を使っているかどうかは分からない。ただ恐らく宗一郎さんたちが生きていても分からなかったと思うよ。それほど現状が奇跡なんだよ。」
「…そう、ですか。ありがとうございます。」
「でも、既に奇跡は始まっている。君たち二人ならこの難局を乗り越えられると思うよ。」
ほの花が生きていること自体が奇跡。
あの日、心臓が止まっていたのは実に一時間弱。
本来ならば息を吹き返すことなんて不可能。
あの日から奇跡が始まっていたのならば、ほの花はきっと目を覚ましてくれる。
そう思わずにはいられなかった。
目尻から流れそうになった涙だけ手の甲で拭き取ると俺は再びお館様に向き合った。
「…もし、それが事実ならば…改めて御礼を言わせてください。ほの花を俺の継子にしてくださって…ありがとうございました。」
「…君は立派な音柱だった。いや、今もその誇りを失っていない。炭治郎たちも君が戦いの場にいたことがさぞかし心強かったことだろうね。」
竈門炭治郎の名前が出たところでもう一つの自分の決意を伝えていなかったことに気付く。
そうだ、俺が引退すること。それが鬼殺隊のためになる唯一の理由。
「…お館様、重ね重ね不躾ではありますが、お願いがあります。」
「ああ、何かな?」
「今まで柱の任務に追われてほの花以外の鬼殺隊の後輩の指導ができずにいました。しかし、柱を引退するのであれば…諸々落ち着いたら是非後輩の指導に尽力したい所存なのですが如何でしょうか。」
音柱は空席になる。
だが、空席のままでも、新たな柱が加わるでもいい。
音柱としての俺の任務はこれで終わった。
頼りにならない後輩ばかりだと気に病んでいたのは伊黒だけでなく俺も一緒。
だが、左目を失って左手が思うように動かない俺が前線に出るよりも後輩たちを育成することで鬼殺隊に貢献する。
それが俺のやるべきことだ。
少なくとも竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助は頼りになる後輩に間違いない。
きっとほの花も許してくれるだろ?
俺が柱として戦わなくとも。
"元柱"として後輩の育成をして戦うことに変わりない。
そしてお前のことも必ず守ってやる。