第38章 何度生まれ変わっても
「天元の腕を治した際にほの花は一度心停止していると聞いているがそれは間違いないかな?」
「はい。間違いありません。」
忘れもしない。
ほの花の心臓の音が聴こえなくなったあの瞬間。
もう二度と味わいたくない。
二度とあんな風に危険に晒したくない。
「僕が神楽家から聞いていたのはその時に亡くなる人が多かったということだよ。だけどほの花は生きている。それは奇跡的なことのようだけど、僕は君のおかげではないかと思っている。」
「…俺の…ですか?」
何を言っているのか流石にわからなかった。
そもそもほの花が死にかけたのは自分の腕を治したことがきっかけ。
お館様の体に使っていたとしても俺ほど使ったわけではない。
正直、責任を感じてしまうのは仕方ないことだと思う。それなのに生きているのは俺のおかげというのはどう言うことなのか?
お館様はゆっくりと頷くと顔を綻ばせた。
「神楽家の女児は代々少し陰陽道を使える程度しか戦えなかった。力が備わってなかったからだ。でも、ほの花は君の継子となり鍛錬を受けていたよね?」
「…はい。」
「君の鍛錬によって体力も筋力も飛躍的に向上した筈だ。それがほの花がいま生きている唯一の理由ではないかと思っている。君のおかげでほの花はいま生きているんだ。」
俺は唇を噛み締めた。
自分のせいだとこの数日間、何度己を責めたことか。
左手が恨めしくて恨めしくて斬り落としてしまいたいほどに感じることも多々あった。
それでもほの花が命懸けで治してくれたのだからと思いとどまってきた。
だからお館様の言葉にいま、心の底から救われた気がした。
継子なんかにしたから…と思ったこともあった。
ほの花を最初から妻として娶っていれば、戦いで傷つかこともなく、俺が何ものからも守ってやれたと。
でも…全てが繋がった気がした。
ほの花は俺の継子になるべくしてなって、
俺の恋人になるべくしてなった。
そして、これからもずっと共に生きていくのだと。
その瞬間、目頭が熱くなってそのまま必死に天井を見上げた。