第38章 何度生まれ変わっても
「…なるほど、そう言うことならば納得です。」
「でもね…知っていたのに僕はほの花が治癒能力を使ってくれているのを止めなかったんだ。」
「…お館様…」
「何としても鬼舞辻無惨を僕の代で倒したかった。その強すぎる想いが何も言わずにコソコソ使ってくれるほの花を利用してしまった。本当に…すまなかった。」
心底後悔をしているのか何度も謝ってくれるお館様だが、正直ほの花が能力を使わなければ此処に既にお館様はいなかったかもしれない。
確かにほの花は今意識不明の重体だが、お館様だけのせいではない。
自分だってそれに気付けなかった。
腕を治してくれたのも途中まで気づけなかった。
でも、気付けなかった、気付かないフリをした先に"今"があるのだ。
その時、"しなかったら?"というタラレバの話などもう無意味だ。
いま、必死に生きようとしているほの花を信じるしかできない。
それでいいじゃないか。
いま、全員がとりあえず生きているのだから。
「…ほの花が望んで使ったことですので、お館様を責めることなどできやしません。それよりも今この場でお館様に引退のご報告が出来たことが俺は嬉しいです。」
「…天元…ありがとう。ほの花は…まだ目が覚めないのかな?どんな具合なんだい?」
「高熱が続いていて油断を許さない状況です。しかし、峠を超えつつあると胡蝶が申しておりました。大丈夫です。アイツは…見かけに寄らず強い女です。」
それは自分自身に言ったようなものだ。
ほの花は強い女。
俺のために自分の欲を捨てられる強い女なのだ。
可憐な容姿とは真逆でおっさんみたいに体裁を気にして、ちょっと頑固なほの花。
人間は後悔の繰り返しだ。
ああすればよかった。
こうくればよかった。
でも、それでも生きてさえいればやり直しがきく。
生きてさえいれば俺は何度でもほの花とやり直すと心に決めているのだ。
「…そうだね。天元がいればほの花は大丈夫そうだ。ありがとう。僕が生きているうちに知っていることを全て君に話そうと思う。時間はいいかな?」
俺はお館様の言葉に大きく頷く。
ほの花のことをやっと知れる機会が訪れたんだと少しだけ心臓が高鳴った。