第38章 何度生まれ変わっても
──産屋敷邸
「よく来たね、天元…」
既に起き上がることもできなくなっていたお館様の部屋に訪れていた俺は見えていないかもしれないが深々とお辞儀をした。
ほの花が力を使わなければならなかった理由が此処に来て理解せざるを得ない。
見るからに弱ってしまっているお館様は恐らくほの花のあの力を無くしては此処まで生きられなかったのだろう。
間違いなくほの花がお館様の命を繋いでいた。そう考えると少しだけ誇らしく感じられた。
「横になったままですまないね。もう起き上がることは殆どできないんだ。」
「いえ…!そんな…、そのままで大丈夫です。」
「上弦の鬼を倒してくれてありがとう。君は本当に素晴らしい子だ。炭治郎と善逸、伊之助も頑張ったみたいだね。そしてほの花も…」
少しだけ言い淀んだお館様を見ればほの花の今の状況のことも知っているのだろうと察しがついた。
竈門達も重傷ではあったが、ほの花ほど先行きが不透明なわけではない。
着実に回復をしているみたいだし、懸念材料はほの花だと言うことは俺と同じだ。
「はい。全員…頑張ってくれました。俺だけでは倒せなかったでしょう。実は…、今日は…お館様にお願いがあって馳せ参じました。」
「ああ、何だい?」
お館様の表情はとても穏やかで、薄っすら笑みを浮かべてこちらを見てくれている。
きっと俺が此処に何を言いにきたかもうお分かりなのだろう。
それを見て俺もいま一度息を吐くと、真っ直ぐにお館様を見据えてハッキリと言葉にした。
「本日をもって"柱"を引退させて頂きたく存じます。」
もう"柱"として第一線で戦うことは出来ない。
自分自身も満身創痍で左目は見えないし、左手もぎこちない。
どのみちそれに慣れて前みたいに戦えるように鍛錬するとなるとそれ相応の時間がかかる。
どれほどかかるか見当もつかない。
だからそれならば、鬼殺隊元柱として最期に役に立てることを自分なりに考えた。
これは自分と鬼殺隊の未来を見据えた前向きな決断なのだ。