第38章 何度生まれ変わっても
ほの花の熱はそれから更に三日経っても下がらずに点滴に繋がれたまま。
毎日部屋に訪れていても苦しそうな顔を見なければならないのは自分自身もツラい。
ほの花の笑顔が好きだと公言しているだけあって苦しそうな顔を見て悦ぶような性癖はしていない。
コイツにはやっぱり笑っていて欲しいからだ。
ふと左腕を見ればほの花が繋げてくれた俺の新しい命がある。
あれから一週間ほど経つが、やはり右手よりはぎこちない。刀を握ることは出来ても振り回すことは出来なさそうだ。
目が覚めたほの花に言えばきっと治してくれようとするだろう。
でも、俺は今日自ら区切りをつけに行く。
そうすることでほの花も救える。
そうすることが鬼殺隊のため…いや、新たな鬼殺隊の始まりにもなるのだ。
「…お前も勝手に俺の記憶消したんだからよ。これでおあいこだろ?」
俺はほの花の頬にぎこちない左手を添えるとそのまま触れるだけの口づけをした。
久しぶりにする口づけはやはり甘くて、いつもと同じように花の匂いがした。
「行ってくるな」と頭を撫でると。ほの花の病室を出ていく。
秋も深まり外にひとたび出れば冷たい空気が突き刺さるが、気持ちは晴れ晴れとしていた。秋晴れと言った陽気が俺を歓迎してくれているようにも感じた。
太陽に手を翳してみれば暖かい陽射しが手のひらから広がっていくよう。
一週間前まで雛鶴達に潜入調査をさせていて、次いで竈門炭治郎達とほの花を潜入させていたことがまるで夢だったのではないかと思うほどに穏やかな日々に感じた。
そして自分の記憶も靄がかったあの時と比べて鮮明で清々しい気分だった。
どれほどツラいことがあろうと悲しいことがあろうと時は変わらずに流れ続けていく。
共に歩んでいきたいと思うたった一人の女が俺を守るために己の全てを投げ打ったのであれば、俺も新たな一歩を踏み出そう。
ほの花との未来を掴むために
俺は今日自分の意志でそれを終わらせる。