第38章 何度生まれ変わっても
「…そういえば…いつお戻りになったんです?おかえりなさい。」
意味深な笑みを浮かべた胡蝶がこちらを見ながらほの花の点滴を交換している。
"おかえりなさい"そう言われて普通の人間ならば一目散に考えるのは物理的なものだろう。
しかし、胡蝶が言ったのは物理的なことでは無く、精神的なことだろう。
そう言われれば、ほの花の命を繋ぎ止めることで頭がいっぱいだった俺たちの間でその会話がなされることは一度たりともなかった。
胡蝶から話題を振ったということは少なからずほの花の体が良くなってきていると言うことだろうか。
そう期待せざるを得ない。
「…戦ってる最中にな。まぁ、その前から何となく自分の心境的にほの花がただの継子だって言うのは納得できなかったけどな。」
「ふふ…。折角のほの花さんがあそこまで心を痛めながら元に戻したのに…残念です。」
「お前、仮にも柱仲間の俺によくそんなこと言えるな。せめて"良かったですね"って言えよ。」
記憶がない間のことはちゃんと覚えてる。
コイツと不死川が必死にほの花の嘘に加担していたことを。
それなのに胡蝶の表情は穏やかなままで悪びれていない。
点滴の交換を終えると薬剤やらが乗っていた銀色の皿を持ったままこちらを向き、口を開いた。
「ほの花さんが何故あなたの記憶を消したか分かりますか?」
胡蝶の言葉は怒るでもなく、悲観するでもなく淡々としている。それが返って心をざわつかせているが、理由は知りたい。
知った上でこの一連の流れを理解したいと思っているのは間違いないのだ。
「…まぁ、何となくコイツのことだから誰かのため…だっつー感じなのは分かるけどよ。」
「鬼殺隊のためです。」
迷いなく、はっきりとそう言い切った胡蝶。
鬼殺隊のため。
それは鬼殺隊に所属している以上、当然考えるべきこと。
だが、俺の記憶を消すこととそれが到底結び付かず、眉間に皺を寄せた。