第38章 何度生まれ変わっても
──産屋敷邸
「そうか!倒したか…!上弦を…!よくやった!天元、ほの花、炭治郎、禰󠄀豆子、善逸、伊之助…!」
ほの花が蝶屋敷に運びこまれる少し前、鬼殺隊本文である産屋敷邸に上弦の陸である妓夫太郎と堕姫を倒したと言う連絡が産屋敷邸に届いていた。
当主である産屋敷耀哉の容体は思ったよりもずっと良くない。ほの花も前よりも率先して能力を使わなければ既に生き永らえることも困難なほど衰弱していた。
ほの花の薬はよく効くが、それでも特効薬は無く、対症療法に過ぎない。
毎回、薬の強さを調整して処方しているが、日に日に強くせざるを得なかった薬にほの花自身迷っていたのだろう。
薬を強くすれば一時的な症状は治まるが、強い薬を使い続けることは体には毒。
結果として死期を早める可能性もある。
だからほの花は少しでも長く生きてもらうために己の治癒能力を駆使して強すぎない薬をずっと処方していたのだ。
その代わり、頓服として症状が強い時のみ強い薬をあまねに預けていた。
「っ、ゴホッゴホッゴホッ…!!」
「耀哉様!」
少し話しただけで血を吐きながら咳き込む姿にあまねが近寄り、背中をさすった。
しかし、それほどまでに上弦の鬼を倒すと言うことが奇跡のようなことだということ。
「百年…!百年もの間、変わらなかった状況が今変わった…!」
口から血を流しながらも耀哉は決して言葉を止めない。体がいくら弱っていこうと気持ちだけはずっと強く持ち続けてきた。
鬼舞辻無惨を倒すために。
「…あまね…」
「はい。耀哉様。」
「分かるか?これは"兆し"だ。天元達が上弦を倒した。そして…、百年越しに神楽家で女児が産まれた。これは…偶然なんかじゃない。」
ヒューヒューという肺からおかしな音がする。
話すたびに咳き込み、血を吐き出しながらも必死にあまねに言葉を紡いだ。
「…必ず、私の代で…私たちの代で鬼舞辻無惨を倒す…!ゴホッゴホッ…カハッ…」
「お前たち!ほの花さんの薬を!お湯も沸かして!手拭いも!」
月が綺麗な夜更けに似つかわしくないその光景。
人の命は儚い。
命の灯火を消えないように必死になる。
それが人間。
鬼にはない美しさ。