第38章 何度生まれ変わっても
正直、ほの花のことは知らないことが多いとは思う。
だからアイツのことを理解しきれずに、こんなことが起こったと。
でも、それは周りも同じであると思っていた。
むしろそうだとしても自分がほの花のことを一番知っていると自負していたのだから。
「…ほの花さんに頼まれてあなたに隠していたことがあります。」
だから胡蝶のその言葉に焦りと動揺で心臓がうるさくてたまらない。
知らないことが多くても治癒能力のことだけは自分が一番知っていると思っていた。
知りたくない。
知ってしまって絶望するのは御免だから。
知りたい。
お前のことは誰よりも知っていたいとこんな時でも思ってしまうから。
「使い過ぎた治癒能力は体に負債として溜まり、発熱を引き起こします。そして…その発熱に薬は効かないんです。」
「…解熱剤が効かねぇってことか?」
「そうです。ほの花さんはそろそろお館様に使っていた分の負債が溜まるのではないかと思っていたところに今回の上弦の鬼との戦闘がありました。」
「ちょっと待て…!ほの花はお館様に能力を使っていたのか?!」
「それも…内緒にしてくれと言われていました。」
信じられない事実が次々と知らされて脳が受け止めきれずに爆発しそうだ。
俺はお館様にも絶対に使うなと言っていた。
アイツも「わかった」と言っていたじゃねぇかよ。
しかも、溜まった負債で熱が出る?解熱剤が効かない?
そろそろその負債が溜まるのではないかと言う時に今回の戦いがあって…、俺の腕を直してくれたと言うことか?
「…ま、待て待て…、助かるよな?折角心臓が動き始めたんだ。助かるだろ?」
「…分かりません。私ができることは点滴から生理食塩水と栄養剤を入れることくらいです。」
"治療は出来ない"
胡蝶が言いたいのはそれだろう。
薬が効かないのであれば熱を下げてやることもできない。
体がそれに耐えられるかどうかも分からない。
上弦の鬼との『譜面』を完成させて勝てたと言うのに、一番愛してる女の『譜面』は一向に完成しない。
次々と出てくるのは予期せぬ事実ばかり。
それは俺を簡単に絶望の淵へと連れて行くのだ。