第38章 何度生まれ変わっても
正宗の後ろには隆元も大進もいて口を挟まずにジッと俺の話を聞いてくれている。
本当はコイツらだってほの花が心配で仕方ない筈なのに、取り乱さずにいられるのは人間ができていると思う。
俺なんて取り乱しすぎて一瞬、気が狂いそうだったというのに。
「…まぁ…、まだ助かるって決まったわけじゃあねぇけどよ…。」
心臓の拍動も自発呼吸も再開していたが、一時間近く蘇生を試みていたことの負債がどれほどのものなのか俺には見当もつかない。
「…大丈夫ですよ。」
すると、肩を貸してくれていた正宗が月を眺めながらそう呟いた。
その目は悲しみに暮れているようには見えない。
「きっと…大丈夫です。ほの花様は助かります。目が覚めたら一緒にお説教をしましょう。」
「須磨さんがおしりぺんぺんするって言ってましたよ。」
「おいおい、アイツはほの花の尻を触りてぇだけじゃねぇのかよ。」
続けて後ろから隆元、大進が元気付けるように軽口を叩いてきたので少しだけ笑えた。
コイツらと出会うことができたのもほの花のおかげでもある。
男同士、酒を酌み交わす時間は多くはなかったけど、少しずつ確実にこの三人との絆も深まっていると感じた。
「…家に帰ってきたらみんなで説教だな。」
「ですね。泣かせてやりましょう。」
「おい、やめろって。俺はアイツの涙にゃ弱いんだよ。」
「宇髄様が一番説教向いてないじゃないですか。」
正宗が「ハハッ」と笑いながら俺を揶揄ってくるが、嘘をついても仕方ないし、俺はほの花の涙を見ちまえばもうコロッと態度を変える気しかしない。
それでも記憶が戻ったことでこんな風に未来を想像することができるようになった。
記憶を消されてからのことも覚えているが、釈然としなかった毎日は靄がかかっていて気持ち悪かった。
やっと長い長い眠りから目覚めたような爽快感もあって、晴々しい気持ちもあったのに、蝶屋敷に着くと、事態はもっと深刻だったことを思い知らされることになった。
人生とはうまくいかないことも多い。
嫌なことは続くこともある。
でも、どんなに苦しくても悲しくても前を見て生きていくことしかできない。