第38章 何度生まれ変わっても
「どれほど願ってもアイツは我儘もほとんど言わねぇ。"誰が見ても恥ずかしくない恋人で継子で薬師"だった。」
そう、ほの花は完璧だった。
優秀な継子。
優秀な薬師。
美しくて気立のいい恋人。
どれをとってもほの花は"ちゃんと"やっていた。そう思われたい。思われなくちゃ。と無意識に思っていたのは間違いない。
人間誰しも少なからず他人からよく見られたい、よく見せないと…と思うものだとは思う。
だけど、ほの花はいきなり大好きな家族や里の人間全てを失って、少しずつ自分という存在を知っていく中で"俺"という存在にも甘えられなくなっていたんだ。
ここに来たばかりの時のがもっと天真爛漫で屈託のない笑顔をしてくれていた。
今のほの花はいろんなもので雁字搦めになって、一人じゃ抱えきれないものを抱えすぎていて気づいた時には俺の記憶を消すという方法しか選択できないほど追い詰められていたのだろう。
忘れ薬を飲まされる前の記憶の中のほの花はふとした瞬間に何か考えているような表情をよくしていたことを思い出す。
それを見て俺もまたほの花が良からぬことを考えているいて、まさかいなくなるのでは…?という気がしていたのだから。
あの時、もっと腹を割ってちゃんと向き合って話していればこんなことにはならなかったのではないか。
後悔は後から後から押し寄せる。
「誰にも言えない何かを抱えてよ、そうせざるを得なかったんだ。だからさ、変な奴と思われるかもしれねぇけど、初めて自分の意志を押し通してきたほの花をいま、すげぇ愛おしいとも感じてんだよなぁ…」
「…宇髄様…」
もちろん記憶を消されたことも、たかが腕一本治すために命をかけたほの花に怒りもある。説教はしてやりたいし、他にも物申すことは沢山ある。
それでも遠慮がちなほの花が一世一代の我儘を押し通した事実は少しだけ嬉しかったんだ。
やったことは説教モノだが、周りを巻き込んででも押し通したそれもきっとほの花のことだから"誰かのため"だったのだろう。