第38章 何度生まれ変わっても
俺は伊黒の制止により、ゆっくりとその手を止めた。
「ほの花、お前何寝てんだよ…?寝すぎだぞ。この俺様が一時間近く起こしてんのによ…。」
いつの間にか伊黒が応援に来ていたことに驚くよりもこの状況の衝撃で頭がかち割れそうなほどにガンガンすることに気を取られる。
上を向いたまま目を閉じているほの花は月の光に照らされて眠っているように美しかった。
出会った時からその美しさは変わらない。
体裁ばっかり気にして恥ずかしがり屋のほの花だったけど、照れたような笑いは本当に可愛かった。
継子としての戦果を上げつつ、薬師としても働くことはさぞ大変だっただろう。
うまく甘えられなくて、本音を言えないところが玉に瑕だったけど、これからもっともっと甘えさせてやろうと先ほど心に決めたばかりなのに。
鼻の奥がツンとしてきたのを振り払う。
涙が出るのはコイツが死んだと認めたことになるからだ。
その代わりに須磨の号泣する声が聴こえてくる。
泣くな。泣くなよ。
泣いたらコイツが死んだみてぇじゃねぇか。
「…おーい。ほの花?ほの花ちゃーん?早く起きねぇと寝込み襲っちまうぞ?」
ほら、恥ずかしがり屋なお前だからすぐに起きて真っ赤な顔をして「やだー!」なんて言うんだろ?
それなのに目の前に横たわるほの花は青白い顔をしたまま笑ってもくれない。
お前の笑顔が好きで好きでたまらないのに。
あの笑顔を見たくて、早く任務から帰ってきたりするほどに。
笑わせたくて
笑顔にしてやりたくて
笑顔なお前を守りたくて
それなのに今お前は何でそんな無愛想なんだよ。
せっかく記憶が元に戻ったんだから、とびっきりの笑顔を向けてくれても良くね?
さっきのアレが最期の笑顔だっつーんなら足りねぇよ。
遂に堰き止めていた涙が頬に一筋の跡を残し、ほの花の頬にも落ちていった。
「…ほの花、愛してる。」
寝込み襲うなんて品の悪いものではない。
ゆっくりと体を持ち上げるとその唇に己のものを押し当てた。
何の意味も無いと分かっていたけど、暫く唇を離さずに何度も何度も酸素を送り続けた。
二度と会えないかもしれない笑顔を取り戻したい一心だった。