第8章 愛し君と…(※)
宇髄さんに按摩をするために来たというのに頭の中は変なことでいっぱいだ。
まきをさんがあんなこと言うからだ…。
彼に促されるがまま背中の按摩を始めるが均整のとれた逞ましい筋肉に触れるだけで顔が火照ってしまう。
「なぁ…?心ここに在らずか。ほの花。」
「え?!い、イエ!ソンナコトアリマセン!」
「それにしてはカタコトだしよ。ちっとも按摩に身が入ってねぇなぁ?他の男のことでも考えてんじゃねぇよなぁ?ほの花ちゃん?」
するとうつ伏せで寝ていた宇髄さんが急に起き上がり、私の顔に手を添える。
今まで顔が見えてなかったから良かったものの彼の顔をまじまじと見てしまえば恥ずかしさが頂点に来てしまい、私は全速力で壁に後退りした。
心臓の拍動が煩い。
触れられた顔が熱い。
少し離れたところでポカンとした顔で宇髄さんがこちらを見ている。
駄目だ、これじゃ宇髄さんを避けてるようにしか見えないではないか。
そうじゃない。
そうじゃないのに…。
言い訳したいのに言葉を紡げば一緒に涙も溢れてきてしまいそうで何も言えない。
それなのに宇髄さんは私の言葉を待つようにじぃっとこちらを見たまま。
「…ご、ごめん、なさい…。」
「ほの花。何考えてる?」
「え?」
「何でそんな怯えたような顔してんだよ。俺には言えないか?」
怒るわけでもなく、咎めるわけでもなく、
宇髄さんの言葉は優しく私に問いかける。
寄り添うようなその物言いに
怖いわけではなくて安心して涙が出てきた。
彼の言葉が温かくて、それだけで緊張感から解き放たれたから。
「…う、宇髄さん…。お、怯えてない、です。私が勝手に…緊張して…っ、宇髄さんは悪くなくて…!」
「…とりあえず、そっち行ってもいいか?お前を抱きしめてやりてぇのに怖がられたら意味ないからな。そっち行くぞ?いいな?」
そんなことまで気にさせてしまった…と申し訳ない気分でいっぱいになったが、コクンと頷くとにこりと笑った宇髄さんがゆっくりと立ち上がってこちらに来てくれた。
そして、ゆっくりと慈しむように私を抱きしめてくれると一気に肩の力が抜けて彼に身を委ねた。