第38章 何度生まれ変わっても
真っ暗闇の中、妓夫太郎は一人佇んでいた。
(何だぁ、此処は地獄か?)
一人でいるかと思いきや、後ろから「お兄ちゃん!」と叫ばれたことに目を見開く。
「嫌だ‼︎此処嫌い‼︎どこなの?出たいよ‼︎なんとかして‼︎」
振り向いた妓夫太郎の目に映ったのは堕姫ではない、梅の姿をした妹。
しかし、妓夫太郎はその姿を見て一瞬、驚きはしたがすぐに目を逸らして歩き出した。
梅に目もくれずに。
「そっちが出口?」
「お前はもうついてくるんじゃねぇ。」
そんな兄の姿に慌てて声をかけた梅だったが、冷たくあしらわれてしまい、冷や汗が流れ落ちた。
「な、何で?待ってよ、アタシ…!」
「ついてくるんじゃねぇ!!」
縋りつこうにも大きな声で怒鳴られてしまうとビクッと体を震わせ、いよいよ梅の目に涙が溜まっていく。
「さっきのこと怒ったの?謝るから許してよ!!」
"さっきのこと"とは、最期体が消えゆくまでに繰り広げた妓夫太郎への暴言のこと。
炭治郎の言う通り、売り言葉に買い言葉だっただけで、梅だって本当はそんなこと思っていない。
兄のことを醜いだなんて思っていない。
ただ負けて悔しかったのだ。
自分のせいで負けたと認めるのが悔しかった。
「ごめんなさい!うまく立ち回れなくて!いつも足引っ張ってごめんなさい!ねぇ、お兄ちゃん!」
「お前とはもう兄妹でも何でもない。俺はこっちにいくからお前は反対の明るい方へ行け。」
もちろん妓夫太郎は梅のことを許してないわけではない。
たった一人の大切な妹を地獄であっても真っ当な方向へ導きたかった。
大切だからだ。
それでも人の想いとは時として真逆のものだったりする。
明るい方へ行けと言われても、其処に大好きな人がいなければ行きたくない。
逆に大好きな人がいれば地獄でもどこでもいい。
梅は兄の背中に向かって走り出すと思い切り飛びついた。
まだ其処にいる兄に。
其処にいるならば共にいたい。
どれほど罵られようとも。
大切な兄だから。