第37章 貴方は陽だまり
雛鶴、まきを、須磨が皆散り散りになってほの花を探しに行ってくれる中、怪我で動けない俺は月を眺めていた。
雲もあるが其処から見える月もほんの少しの星も生きているから見られる。
ほの花も生きてる筈だ。
あの時、俺があの鬼の元に行った後ほの花と奴らの接触はなかった。
考えられるのは爆風に巻き込まれて瓦礫の下敷になってやしねぇよな…?
いや、アイツはああ見えて結構すばしっこい。
華奢な分、体が軽いのだろう。
空を眺めていた俺に誰かが近づいてきた足音が聴こえてきた。
あの三人が戻ってきたにしては早すぎるし、その足音は聴き覚えがあった。
慌ててその足音の方向を見れば、ドンッと誰かが抱きついて来た。
見覚えのある栗色の髪。
嗅いだことのある花の匂い。
俺の目が勝手に下がっていくのが分かる。
「…おいおい、俺、重傷なんだわ。優しくしてくれよ、ほの花ちゃん。まぁ、久しぶりの抱擁は嬉しいけどよ。」
しかし、ほの花は何も答えずに俺に抱きついたままで、よく見たら髪も短くなってしまっていた。
早くこのまま熱い口づけとしけこみたいところをほの花はピクリとも動かずに俺に抱きついている。
「……おーい。泣いてんのか…?言い訳なら聞いてやるぞー。お前が俺になんかしたのは分かってんだぞ。」
責めるつもりはなかった。
ほの花にはほの花の考えがあった筈。
もちろん怒りはある。
だが、それは今じゃない。
今は久しぶりのほの花の温もりをただ感じたいという欲があった。
「お前は…俺の女だ。もう二度と忘れてやらねぇからな。」
すると今まで少しも話さなかったほの花が声を上げた。
「…ううん。私は貴方の継子。」
やけにハッキリとその言葉だけが耳に木霊した。
おいおいおい…此処は感動の再会で熱い口づけだろうが。
喧嘩おっ始めようってわけかよ。
眉間に皺を寄せてほの花を見下ろしてみるが、こちらを見ることなく、話し続ける。
「でも…そんな夢を見たこともあります。幸せでした。全部夢だっただけのこと。私は貴方のただの継子。それ以上でもそれ以下でもない。」
ほの花の心臓はこのまま止まってしまうのではないかと思うほどゆっくりだった。