第37章 貴方は陽だまり
私がいることで…?
総攻撃が加わるということ?
産屋敷様まで被害を被るの?
ほの花の頭の中は先ほどの妓夫太郎の言葉がぐるぐると回っていた。
害悪だと言うのはわかっている。
それほど強い稀血だと珠世さんが教えてくれたから。
神楽家に娘が生まれていたことを無惨は知らなかったのだ。
それなのに自分が自らアイツらの前で名乗ったから知られてしまった。あれほど家族が、里のみんなが命をかけて隠し通してくれたのに。
稀血の成分だけ知られなければいいと思っていたが、そうじゃない。
自分の存在自体が知られてはならなかったのだ。
鬼の記憶は無惨に直結する。
既に私のことは知れ渡っていることだろう。
目に涙がたまる。
"生まれてこない方が良かった"
そんな風に思ったことは一度もなかった。
それは自分の出生の秘密を一族総出で隠してくれたから。里られないようにしてくれたから。
でも、今死ぬほど生まれてきたことを後悔している。
私のせいで里の人が全員死んだ。
これから鬼舞辻無惨の総攻撃が鬼殺隊を襲うならば多数の死傷者が出るだろう。
一緒に戦ったとしても珠世さんの毒もまだ完成されていないのに私の稀血でなんとかするわけにもいかない。
役立たず。
何のために生まれたのか全く分からない。
これでは大量の人々を自分の存在で虐殺したと言われてもいいほどではないか。
一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは手に持っていた宇髄さんの腕に当たり濡らしていく。
早く持っていかないと。
細胞は刻一刻と死滅してしまう。
必死に足を動かすが涙も止まらない。
「…いいや…どのみち…体が持たないかもしれない。」
自分の体は堕姫にやられた肋骨と何人もの重傷者を治癒してきた負債でずっと頭がふわふわしている。
その内発熱もしてくるだろう。
「…何で…うまくいかないんだろう…?悲しいよ…苦しいよ…。」
脳裏に浮かぶのはみんなで桜を見たあの日のこと。
約束は守れないかもしれないけど、自分の大切なものだけは最期にどうしても守りたかった。
助けてもらった恩をちゃんと返したかった。